2020 Fiscal Year Research-status Report
Economic Analysis of Liability for Damages Concerning Nuclear Disaster
Project/Area Number |
17K13751
|
Research Institution | Meisei University |
Principal Investigator |
大石 尊之 明星大学, 経済学部, 准教授 (50439220)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 法と経済学 / ゲーム理論 / 不法行為法 / 公理的アプローチ |
Outline of Annual Research Achievements |
原子力災害の賠償責任問題に関連して、複数の不法行為者と被災者の間の因果関係が樹木構造になっているような賠償責任問題における、賠償スキームの公理的研究(アムステルダム自由大学 Gerard van der Laan教授およびRene van den Brink教授との共同研究)について、前年度に引き続き、発展的にこの研究を進めた。今回の研究では、不法行為法の諸概念を基礎に置く公理を使いながら、協力ゲーム理論の主要な解の1つであるShapley値が賠償金の帰結になるようなルールの公理化を新たに得ることができた。この結果は、前年度までに得ていたものとは違うものであり、協力ゲーム理論の別の主要な解の1つであるNucleolusが賠償金の帰結になるようなルールの公理化との対比をより鮮明にすることができている。この結果を通じて、裁判所が適用する不法行為法に関する法概念がどのように違うと、どのような帰結の相違を生じさせるのかを、初めてミクロ経済学的に明らかにできている。具体的には、法的責任の境界に関する法概念と寄与過失法理ではなく比較過失法理を重視するような法概念に基づく公理系を導入すると、Nucleolusが賠償金の帰結になるようなルールの公理化が可能となる一方で、法的責任の境界に関する法概念を弱めたうえで、さらに不法行為者の限界損害の変化の影響がその不法行為者の法的責任と無関係な不法行為者たちの賠償金には影響しないという法理を考慮すると、Shapley値が賠償金の帰結になるようなルールの公理化が可能となる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初は、研究概要で述べた研究成果の一部(Oishi, van der Laan, and van den Brink, Axiomatic analysis of liability problems with rooted-tree networks in tort law, unpublished results)を、国際的な学術団体Game Theory Societyの第6回世界大会(2020年7月でハンガリー、ブダペストで開催予定)で大石が発表する予定であった。しかし、2020年度は、新型コロナウィルスの感染拡大が世界的に起きたため、学会報告は中止となり、2021年度に順延となった。また、共同研究者のいるアムステルダム自由大学に滞在し、集中的に共同研究を進める予定であったが、新型コロナウィルスの感染拡大により、できなかった。そのため、活発な議論や情報交換、および情報収集が、在外研究や国際学会参加を通じてできなかったことで、不法行為法の公理的研究を発展、完成させることが、当初予定より遅くなった。現在、Oishi, van der Laan, and van den Brinkの共著論文 Axiomatic analysis of liability problems with rooted-tree networks in tort law(unpublished results)は、理論経済学の国際学術誌の審査プロセス中にある。
|
Strategy for Future Research Activity |
複数の不法行為者と被災者の間の因果関係が樹木構造になっているような賠償責任問題における、賠償スキームの公理的研究を完成させる。Oishi, van der Laan, and van den Brinkの共著論文 Axiomatic analysis of liability problems with rooted-tree networks in tort law(unpublished results)では、当初、最近のミクロ経済学やゲーム理論の研究で注目されている、ヒエラルキー構造化の資源配分問題(resource allocation problems in the presence of a hierarchical structure)や不足する資源をどのように各人の(対立する)権利を考慮に入れながら分配するかという経済問題(problems of adjudicating claims)との研究成果との接続を、意識していなかった。現在、投稿している国際学術誌のレフェリーたちの助言に基づいて、これらの諸問題と今回の共同論文の成果との接続を検討している。この検討を通じて、共同研究で得た研究成果の適用範囲を広げることが可能となるだけでなく、扱った賠償責任問題をネットワークモデルとは違う形式でモデル化し、さらなる分析が可能となることが期待できる。 また、2020年度開催が中止となった、The 6th World Congress of the Game Theory Societyは、2021年7月にオンライン形式と対面形式のハイブリット型発表形式で、開催予定であり、大石が上記論文について報告予定である。この発表を通じて、因果関係が樹木構造になっているような賠償責任問題における、賠償スキームの公理的研究の完成に向けた、研究遂行を着実に進めることが期待できる。
|
Causes of Carryover |
2020年度は新型コロナウィルスによる世界的パンデミックのために、当初発表予定であった国際学会や海外共同研究者との在外研究を目的とした海外渡航がすべてできなくなったために、関連する旅費の使用ができなかった。これにより、次年度使用額が生じた。2021年度は、本研究事業の最終年度であるため、研究成果を最終的に論文としてまとめ、成果を広く公表するために、適切に研究費を使用していきたい。さらに、研究遂行に必要不可欠な環境整備のために、PCあるいはその周辺機器、ソフト、ならびに関連研究書籍の購入にも当該助成金を使用したいと考えている。
|
Research Products
(2 results)