2021 Fiscal Year Research-status Report
Economic Analysis of Liability for Damages Concerning Nuclear Disaster
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17K13751
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Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
大石 尊之 明治学院大学, 経済学部, 教授 (50439220)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 法と経済学 / ゲーム理論 / 不法行為法 / 公理的アプローチ |
Outline of Annual Research Achievements |
原子力災害の賠償責任問題を経済学的に考えるうえで、裁判所が当該の問題に対してどのような法概念や法律を適用して、公正な法的帰結を導くことができるのかを規範的に分析することは重要なテーマの1つである。大石は、アムステルダム自由大学 Gerard van der Laan教授とRene van den Brink教授との共同研究を通じて、このテーマに対する研究を継続的に行ってきたが、2021年度において以下に説明する通り、一応の完成をみた。原子力災害や大規模な公害問題のように、複数の不法行為者と被災者の間の因果関係が樹木構造になっているような賠償責任問題における、複数の賠償スキームの特徴付けを、特にアメリカ不法行為法において展開されてきた法概念を用いて行った。主要な結果は次の通りである。[1]:アメリカのRestatement of Tortsに基づく賠償金の上限と下限に係る公理および、法と経済学の創始者のひとりであるCalabresi (1985)の着想に基づく、賠償金の整合性公理を満たす賠償スキームは、ロールズ流の規範的帰結となるNucleolusをもたらす賠償スキームだけである。[2]:アメリカのRestatement of Tortsに基づく賠償金の下限に係る弱公理、(上述の)賠償金の整合性公理、および不法行為者の限界損害の変化の影響がその不法行為者の法的責任と無関係な不法行為者たちの賠償金には影響しないという公理(限界損害独立性)を満たす賠償スキームは、協力ゲーム理論の解の1つであるShapley値を帰結としてもたらす賠償スキームだけである。[3]:整合性公理、下限公理および限界損害独立性公理を満たす賠償スキームは存在しない。これらの3つの結果を含む研究成果は、論文としてまとめられ、理論経済学分野の査読付き国際学術誌Economic Theoryに発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度の研究実績報告書で示した今後の研究指針方策において目標としていた、査読付き国際学術誌への論文発表、および国際学会での研究報告を2021年度に達成できた。この意味で、現在までの研究進捗状況は概ね順調である。以下、具体的な研究進捗状況を報告する。[1]: 研究概要で述べた研究成果は、理論経済学分野の査読付き国際学術誌Economic Theoryに以下の内容で発表された:Oishi, T., van der Laan, G. & van den Brink, R. Axiomatic analysis of liability problems with rooted-tree networks in tort law. Econ Theory (2022). (https://doi.org/10.1007/s00199-021-01399-w) 現時点ではonline firstとして公刊されているが、2022年度中には印刷物として公刊される予定である。[2]:学会報告および研究会報告だが、国外1件、国内1件の研究報告を実施した。まず、国際的な学術団体Game Theory Societyの第6回世界大会(The 6th World Congress of the Game Theory Society : 2021年7月19日から23日にハンガリー、ブダペストで対面とオンラインのハイブリッド形式で開催)にて大石が7月23日に[1]の研究論文を英語で単独発表した。次に、慶應義塾大学経済研究所主催のワークショップにて、大石が2021年11月12日に[1]の研究論文を英語で単独発表した。いずれの研究発表においても、活発な質疑応答が展開されて、本研究助成事業のさらなる推進に必要な助言やコメントを得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
最終的な研究目標は、原子力災害の賠償問題に応用できるような、因果関係がネットワーク構造になるような不法行為法問題の規範的分析のための新しい経済モデルを開発することと、原発事業主が過去の経験に基づいて非ベイズ的な類推から行う操業活動と賠償責任形態との関係を調べるための新しい経済モデルを開発することである。前者の研究目標は2021年度においてOishi, van der Laan, and van den Brink (2022, Economic Theory)で達成できたといえる。従って、2022年度の研究推進の方向は、非ベイズ的な類推に基づく防災・減災インセンティブと法制度の関係を調べる経済モデルを開発することになる。具体的には、Gilboa and Schmeidler (2001)で提唱された事例ベース意思決定理論のアスピレーション水準を伴う効用関数をもとにして、経済モデルの開発を検討する。原子力災害が起きた場合、原発の安全な操業責任を有する事業主側の活動水準や注意水準が災害のリスクに直接関連する。このような一方的事故では、事業主の活動水準を通じた効用から社会的総費用(注意費用と事故による期待損害額)を差し引いた社会的厚生を最大化することが社会的目標となる。そして、社会的総費用は厳格責任や過失責任のような法制度における責任形態に応じて変化する。事業主のアスピレーション水準が、過去の責任形態や過去の活動水準を通じた社会厚生に依存して変化するとき、事例ベース意思決定から選択される操業活動が社会的に望ましいかを分析する。例えば、この分析を通じて、過失責任に基づく社会的に最適な活動水準が、中規模災害時では適切でも、大規模災害時には活動量が過剰になっているために、深刻な被害を生じさせるかもしれないことがいえるかもしれない。このような方向で研究を進める。
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Causes of Carryover |
2021年度は前年度から引き続き、新型コロナウィルスによる世界的パンデミックのために、当初現地で発表予定であった国際学会The 6th World Congress of the Game Theory Societyや海外共同研究者(アムステルダム自由大学 Gerard van der Laan教授とRene van den Brink教授)との在外研究を目的とした海外渡航がすべてできなくなったために、関連する旅費の使用ができなかった。これにより、次年度使用額が生じた。(ただし、上記の国際学会は対面とオンラインのハイブリッド形式で2021年7月に開催され、オンラインで大石が参加、研究を発表したので、学会参加費については使用額が生じた。) 2022年度は、本研究事業の最終年度であるため、研究成果を広く公表するために、適切に研究費を使用していきたい。さらに、研究遂行に必要不可欠な環境整備のために、PCあるいはその周辺機器、ソフト、ならびに関連研究書籍等の購入にも当該助成金を使用したいと考えている。
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Research Products
(6 results)