2018 Fiscal Year Research-status Report
日系多国籍企業内の海外子会社間の競争と協調に関する研究
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17K13777
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大木 清弘 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 講師 (20611073)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 国際経営 / 多国籍企業 / 競争 / 協調 / 自律性 / 意思決定権限 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、「海外子会社間の競争と協調のバランスとパフォーマンスの関係の探求」を行いつつ、「両者のバランスを取るためのマネジメントの探求」を開始することを目的とした。 まず、質問票調査を元にした分析結果を組織学会で報告した。ここでは、海外子会社の競争が、買収した子会社において、海外子会社のパフォーマンスと正の相関を持つことが明らかになった。また、海外子会社の自律性がパフォーマンスと正の相関を持つことが明らかになった。 この分析結果を元に、研究を二つの方向で進めた。まず、当初の方向を踏まえて、競争と協調のバランスとパフォーマンスの関係を探求した。そのためにマレーシアおよびタイの日系海外子会社へインタビュー調査を行った。結果、海外子会社の競争関係がパフォーマンスの向上につながるためには、現地の経営層と現地従業員の意識が重要となる可能性が見て取られた。一方協調関係については、協調によってもたらされる知識共有が必ずしも子会社レベルのパフォーマンスにつながらない可能性があるため、多様なパフォーマンス指標との関係を分析する必要があることが明らかになった。そのため現在、経済産業省のデータとの紐づけを行い、様々な従属変数を用いた分析を行っている。また、両者のバランスを取るためのマネジメントとして、本社のコントロール、海外子会社同士のコミュニケーション、競争領域のすみわけが示唆された。 次に自律性(意思決定権限)に関する研究も行った。自律性は、前述の研究報告において海外子会社のパフォーマンスと正の相関を示した要因だったため、追加の検証が必要であると考えた。そこで、海外子会社の自律性に関する研究を行い、2本の論文が発行されている。これらから、意思決定権限を本社、日本人駐在員、現地従業員の誰が持つかと、海外子会社のパフォーマンスに関係があることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
「海外子会社間の競争と協調のバランスとパフォーマンスの関係の探求」「両者のバランスを取るためのマネジメントの探求」としては、当初の予定通り前年度までの質問票調査に基づいた統計分析が終了し、インタビュー調査からこれらの具体的な姿が明らかになってきている。そのため、次年度に質問票調査を行えるだけの準備ができている。ただし、質問票については、「質問票調査による主観的な分析データは論文として掲載しにくい」という近年の国際経営分野のアカデミックな風潮を踏まえて、慎重に各項目を作る必要があるため、現状、質問票を練っている状態である。 このような当初の計画通りの状況に加えて、「自律性」という当初予想していなかった新たな要因に基づいた研究が、国内の主要ジャーナル、並びに海外のインパクトファクターのあるジャーナルに掲載されるに至っている。これは当初の計画以上の進展といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
令和元年(平成31年度)は、「海外子会社間の競争と協調のバランスとパフォーマンスの関係の探求」と「両者のバランスを取るためのマネジメントの探求」の双方の最終的な成果を出すことが目的である。 「海外子会社間の競争と協調のバランスとパフォーマンスの関係の探求」については、再度質問票調査を行い、海外子会社の競争と協調のバランスがパフォーマンスに与える影響について、異なるタイムスパンで分析する。そのために、経済産業省のデータを用いた経年的な分析を行う。また、「両者のバランスを取るためのマネジメントの探求」についても、可能な範囲で質問票の項目に加えつつも、定性的な調査によってその具体的な姿を明らかにしていく。 一方、当初の予定に縛られず、海外子会社のパフォーマンスにつながる新たな要因があれば、それも分析対象に積極的に含めていく。こうした姿勢を持っていたからこそ、平成30年度に当初の計画以上の成果を出すことができたからである。「競争と協調」に関するマネジメントを明らかにすることを第一としつつも、それ以外の要因を取りこぼさないことで、日本企業の海外子会社において重要なマネジメント要因を、引き続き明らかにしていく。
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