2017 Fiscal Year Research-status Report
Conceptualization of Green Human Resource Management
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17K13788
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Research Institution | The University of Kitakyushu |
Principal Investigator |
福井 直人 北九州市立大学, 経済学部, 准教授 (00510918)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 人的資源管理 / 環境問題 / 環境経営 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、近年の欧米文献のなかで提唱されている「環境志向の人的資源管理」(英語では“Green Human Resource Management”、以下「環境HRM」と略)ついて理論的な考察を行ない、その日本企業への普及可能性を探究することである。 この研究課題を達成するために、2017年度は環境経営を中心としつつ、環境HRMの諸文献を収集し、これらのレビューに時間を費やしてきた。文献レビューにおいては、環境経営とはいかなるものかという基礎的な概念規定を行なったうえで、これまでの環境経営研究の中で人のマネジメントがどのように議論されてきたのかを確認してきた。環境経営研究においては、人のマネジメントについての言及は少なかったけれども、環境経営に対する従業員参加の重要性や、環境教育のさらなる充実について議論が深められてきたことが確認された。一方で、これまでの人的資源管理研究の系譜のなかでも何らかの形で環境への言及はあったはずなので、人的資源管理学説における環境概念の捉えられ方、その変遷について整理を行なってきた。人的資源管理研究のなかでは、オープンシステム論の視座が取り入れられるに従い、人的資源管理を取り巻く環境についても考察されるようになってきた。しかしながら、そこで言及される環境はタスク環境や競争環境であることが多く、自然環境については言及されないか、あるいは所与のものとして分析対象外となりがちであったことが確認された。ただ、実績としてはそこまでであり、現時点では研究業績としては残せていない。文献レビューを早めに終わらせ一次資料の収集に早急に取り組むとともに、環境HRMに関するテーマで、学会報告や論文投稿を今年度中に行なう予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現代社会においては地球規模の環境破壊が深刻化しており、それをもたらした大きな要因は企業活動である。企業はその社会的責任を果たすなかで、とりわけ自然環境の保護、ひいては持続可能な社会の形成に尽力する必要に迫られている。その前提として企業の従業員各人が環境保護に向けた活動を行なう必要があり、その活動を促すための人事制度が環境HRMである。この環境HRMという概念はごく少数の先行研究のなかで提示されるにとどまり、環境HRM研究のみの研究系譜をたどること自体は困難な作業ではない。ただ逆に言えば、確固たる分析枠組がないので、本研究独自に枠組の構築を進める必要があるという、別の困難さがある。この理由により、思いのほか現時点での研究進捗の状況は芳しくない。 進捗状況を端的に示すと、現時点では既存研究の文献レビューを行なうにとどまっており、現在もその作業に取り組んでいる最中である。環境経営論と人的資源管理論の系譜が交差するなかで、新たに環境HRMという概念が措定されたものと推察できる。ただこの点については、今後更なるレビューを加えることで、説得力ある結論を導出していかねばならない。文献レビューの結果を昨年度中に論文として公刊したかったが、関連文献が思いのほか多かったこと、また環境HRMの先行研究レビューに思いのほか時間がかかったことにより、それは実現できなかった。概ね論文の骨格は完成しつつあるので、早めの論文公刊を目指す。また同時に、環境HRMに取り組んでいる企業を訪問し、聞き取り調査を行なうことも予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
文献レビューに思いのほか時間がかかってしまったのは、渉猟する文献の範囲を広げすぎたことである。「環境」と題する先行研究は経営学以外にも膨大に存在するので、なるべく関連するものに絞り込む必要がある。また最近、Renwickにより Contemporary Developments in Green Human Resource Management という、環境HRMでは初めての体系的研究書が公刊されたところなので(この本は1年ほど前に公刊予定とされていたが、ずいぶん延びた)、この知見も活かしながら自身の分析枠組を構築していきたい。また、文献を読み進めるに従い、環境経営における諸議論は非常に規範的かつ観念的であることも確認された。本研究は実践的含意を明確な形で提示したいので、このような議論に陥らないような工夫が必要である。そのためには、環境HRMに取り組んでいる企業、ないし環境HRMと称さなくても環境問題を何らかの形で人事制度に取り込んでいる企業を探索し、その企業にアプローチすることが求められる。研究期間の2年目に入る今年度は、早急に一次資料の収集対象となる企業を選定し、その企業に対するインタビュー調査を行なう必要がある。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は以下の2点である。第1に、文献レビューに思いのほか時間がかかってしまい、新規の図書や論文の入手に費用をあまりかけられなかったためである。第2に、当初予定していた、企業(人的資源管理制度に環境問題の視点を取り入れている先進事例)へのインタビュー調査を行なえず、予定額どおりの旅費支出ができなかったことである。次年度(既に今年度に入っているが)の使用計画としては、文献レビューに要する図書や論文を相当数購入すること、企業に対するインタビュー調査を実施することを予定しているので、研究費支出もこれに合わせて生じる見込みである。
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