2018 Fiscal Year Research-status Report
同族企業の維持・終焉と信頼の関係:医薬品の取引システムとその変容を通じた考察
Project/Area Number |
17K13804
|
Research Institution | Kyushu International University |
Principal Investigator |
藤野 義和 九州国際大学, 現代ビジネス学部, 准教授 (10781403)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 医薬品産業 / 同族企業の終焉 / 取引システム / 信頼 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまで「大量保有の株式が分散してもなお、なぜ創業者一族(以下、同族)が経営に関与し続けることができるのか」という問題を紐解くため、医薬品産業に焦点を絞り、さらに信頼を鍵概念として分析を進めてきた。 医薬品産業に着目する理由は、医薬品業は他の業界よりも同族企業が多く、そして長く続く傾向が見られた。一方で、2000年前後の産業構造の変化期に業界を代表する企業において同族関与が終焉する傾向が見られた。長く続いた同族関与が集団的に終焉したのはなぜか、そしてなぜ特定の集団のみそれが起こったのか、これら問いは上で設定した問題と関連する事から同産業を分析対象とした。また信頼概念に着目する理由は、医薬品業と卸の関係は競争秩序を保ち利益共同体であったと考えられており、その関係は信頼により維持されていたと推察されたからである。 医薬品産業の研究を整理すると、1990年代まではテリトリー制や系列といった商慣行があり、医薬品を病院等に販売する医薬品卸と医薬品業のつながりは強かったといわれている。その後、このような商慣行が形骸化し始め、さらに医薬品業と医薬品卸はそれぞれでM&Aが数多く起こり、特に医薬品卸は寡占化が進んだ。さらに海外の医薬品業の参入が進むなど産業構造が大きく変化した。このことから、2000年頃の大きな構造変化が同族の経営関与の終焉につながったと言えなくはない。しかし、医薬品産業では過去に何度も構造変化が起きている。その間同族関与が続いたのに、近年、特定の集団のみ終焉したのか、その理由を探求している。 信頼研究によれば、強い結びつきであれば意図的信頼が機能し、弱くなると能力的信頼が機能するとされる。上述の医薬品業と卸の関係性の変化にあてはめれば、関係者間の信頼内容が変化したと推察される。本研究では、医薬品業や卸の経営者、そして業界団体のトップの言説の変化を探りながらその点を実証する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年の研究課題として、①公刊資料にもとづいて医薬品業の経営者の発言を収集・整理すること、②実務家に対しインタビュー調査を実施すること、主にこの2つを設定した。①のデータ収集を始めたところ、医薬品卸業に関する豊富なデータの所在が明らかになった。このデータにより、医薬品卸業を対象とした統治構造や戦略の変化が明らかとなる可能性が高いと判断された。そのため計画を変更し、データの入手、入力、分析を行った。現在はデータ入力を終え分析を進めている。その結果を平成31年(令和元年)度中に論文として投稿する。 医薬品卸業はM&Aがすすみ、大手4社のシェアが高まっている事が知られている。現在、データ分析の途中であるが、大手に同族企業が吸収されたケース、大手の資本を受け入れ傘下となったが経営は同族が行っているケース、そしてそれらとは異なり、同族企業同士が合併し、地域に根をおろし続けながら同族企業が共同で経営に関与するケース、あまりM&Aを行わず地道に同族が経営に関与し一定程度の成長を達成したケースなどがみられた。現象の全体像を長期的に描写する事は、同族企業による統治と戦略の変化の関係性を紐解くことにつながる。昨年度はその作業に注力した。 また当初の計画では①②を踏まえたうえで、テキストマイニングの手法を用いた分析を予定した。しかし卸業の豊富なデータの所在が明らかとなったことで、医薬品卸業における戦略と統治構造の変化の関係性の分析を追加した。同分析においては、必ずしもテキストマイニングによる分析を必要としないため、同手法を用いた分析を保留としている。ここであげた医薬品卸業の長期的分析の後に、いままで収集した経営者の言説分析を同手法を用いて進める。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成31年(令和元年)度の計画は、まず医薬品卸業の同族関与の変化と戦略の変化の現象を明らかにした後、同業界の特徴を明らかにし、医薬品業やその他の業界と異なる点は何か、またその現象は医薬品業の同族維持・終焉と関係しているのかを分析する。 具体的には、これまでの研究では系列化やテリトリー制といった商慣行がみられたという事は述べられているものの、具体的にどの卸がどの医薬品業の系列であったのか、また販売地域が限定されていたというものの、実際どの卸がその慣行に従っていたのか、また従った結果、企業の経営活動がどうなったのかについては必ずしも明らかになっていない。現在はそれを明確にする作業を行こなっており、それにより医薬品卸業の過去の戦略の傾向をあぶりだすことが可能となる。加えて、そこには似通った戦略を志向するグループが存在することも明らかとなるであろう。このような戦略グループとグループ間の同族関与の違いを明らかにしたうえで関係性を分析する。 続いて、医薬品卸業でも戦略グループと統治構造の変化に特徴がみられるのであれば、医薬品業や卸業の経営者の言説を用いたテキスト分析を進める。経営者が何を考え、どのような意図で戦略や統治構造の変化を企図したのかを探るためである。その際、分析対象となるデータが豊富であれば精度が高まることから、業界雑誌等にもとづくデータ収集を引き続き行う。 さらに、医薬品卸業を対象とした調査・分析を加えたが、すべての卸業を対象とし分析を進めることは難しいことも予想される。その場合、九州地域の卸業に限定し分析を進める。医薬品はわれわれの生命と関連する商品であることから、地域差が生まれにくと推察され、医薬品業と医薬品卸の関係性を示す商慣行は、どの地域であっても当然のように存在した。こうした考えから進捗度に応じて対象を限定化していく。
|
Causes of Carryover |
出張が少なかったため、次年度使用額が生じた。出張減の理由は、これまで何度か利用経験のあった医薬品業の図書館が方針を変更し、所蔵雑誌等の印刷、撮影ができなくなり、予定していた出張を取りやめたからである。代替案として、国立国会図書館を利用し、文献複写を行ったため、旅費以外の項目の金額が増える結果となった。今年度は差額分をさらなる文献複写に使用したり、文献購入に充てる計画を立てている。
|