2018 Fiscal Year Research-status Report
Inclusion/Exclusion in Luhmann's System Theory: Toward a social theory of the post-national welfare state
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17K13847
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
高橋 知子 (渡會知子) 横浜市立大学, 国際総合科学部(八景キャンパス), 准教授 (10588859)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | システム理論 / 空間 / 移民 / ジンメル / ルーマン / 美学 / 住居 / インテリア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ドイツの社会学者・思想家であるニクラス・ルーマンの社会システム理論を、包摂/排除をめぐる議論として再構成する理論的研究である。それによって、現在、既存の枠組みを超えて進行する様々な現象(とりわけ移動の増大と、トランスナショナルな現実の創発)を理論的に記述するための方法論的視角を鍛えることを目的としている。 2018年度は、「空間」という切り口から、この研究課題に取り組んだ。空間論は、近年、領域横断的な関心を集めるテーマとなっている。本研究では、社会学や人文地理学の実証的な研究の成果を視野に入れつつ、E・カントの空間概念に遡ることによって、これを社会学に導入して発展させたG・ジンメルとN・ルーマンのアプローチを比較検討した。研究成果は、国際社会学会(ISA)世界大会のテーマ・セッション「空間の再編ー社会理論の挑戦(”The Spatial Reconfiguration: Challenges for Social Theory”)」(2018年7月トロントにて開催)にて報告した。空間的なものの捉え方を、哲学的原理に辿りつつ独自に考察し、具体的に移民支援をめぐる現場の力学を分析するための社会学的方法論として提示した本報告は、当日のセッションで非常に大きな反響を得た。現在は、セッション・オーガナイザーの推薦を受け、同報告を学術論文(英語)として発表するために準備中である。 また、従来の消費記号論の枠組みでは捉えきれない住まいとインテリアの審美的側面について、現象学・美学における近年の議論を援用して考察した。これは上記の空間論的考察の、派生的成果である。論文は、LIFULL HOME'S総研による調査報告書の巻頭論文として公表した。このほか、ルーマンの主著である『社会システム理論』を、今日的な文脈で読み返すための論稿を『思想』に執筆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度に得られた「空間」という切り口を、理論的に深化させることができた。また、そうした研究を通じて、諸外国の関連分野の研究者たちとネットワーキングができた。さらに、住宅業界における調査プロジェクトへの参加を通して、研究成果を社会的に還元することができた。当初は想定していなかった研究の広がりも含めて、研究は順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画では、テーマ別に年度を区切って進めていく方針であった。しかしこれまでの研究の展開をふまえると、次年度はテーマ横断的な基礎論(概念的考察)に傾注することが、より実りが多いと考えている。例えば、「意味」「構成(主義)」「機能分化」といったルーマンの基礎概念は、それぞれ「空間」「実践(支援)」「ポスト・ナショナルな福祉国家」「移民の自律性」といった、本研究で手がける個別のテーマに結びつけたとき、あらためて根本的に(理論的に)考察されるべき論点が多くある。2018年の国際社会学会(social theory部会)で非常に良い人的ネットワークが得られたこともあって、2019年度は理論研究に傾注するのが良いと考えている。現在、学会のセッションオーガナイザーの推薦を受けて準備している欧文の論文は、そうしたネットワークでの議論をより建設的かつ実質的に進める上での立脚点になると考えている。
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Causes of Carryover |
パソコン機器が予定よりも廉価に購入できたことが理由である。差額の使途については、これまでの研究の展開から新たに入手するべき関連文献が生じていることもあり、主に文献調達費用に充当する予定である。
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