2021 Fiscal Year Research-status Report
Inclusion/Exclusion in Luhmann's System Theory: Toward a social theory of the post-national welfare state
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17K13847
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
高橋 知子 (渡會知子) 横浜市立大学, 国際教養学部(教養学系), 准教授 (10588859)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ルーマン / ラトゥール / 理論の構成 / 空間 / 移民 / 包摂 / 排除 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、ニクラス・ルーマンの社会理論の構成のあり方について、同じく社会理論の刷新を掲げるブリュノ・ラトゥールの理論との対比で考察を行った。両者の理論は思想史的には別の流れに位置するものの、現代に適した社会認識がどのようなものでなければならないかを論じるとき、いくつかの非常に根本的な命題を共有している。そのひとつが、社会認識を基礎づける図式(「ミクロ/マクロ」「グローバル/ローカル」「全体/部分」といった空間認識)が、理論的にはもはや前提にできないという命題である。こうした素朴な空間認識は、直感的には親しみやすいものの、現代社会の事物の連関の複雑さを記述する概念としては適切でない。本研究では、ドイツの移民支援の様子を記述する視点としてルーマンの「包摂/排除」概念の検討を行なっており、とりわけその空間論としての可能性に注目してきた。(これについてはすでに『社会学史研究』およびISA World Congress of Sociologyで発表済み。)今回、既存の社会理論の刷新を掲げるもうひとつの理論と比較することで、単純な空間認識や、現場の実践とは無関係に持ち込まれる説明図式に頼ることなく、現場で観察される無数の(政策と遂行、理論と実践、アクター間の思惑の齟齬などの)差異や断絶と、そこから創られていく現実を記述するための「方法としての理論」の可能性を明らかにすることができた。関連する考察を、社会学史学会第60回大会記念座談会(『社会学史研究』43号)に収録している。 理論研究の他に、国内で調査研究を行うための準備作業ができたことも、本年度の進捗である。ドイツへの調査渡航は、新型コロナウィルスの感染状況に照らして、今年度も実現させることはできなかったが、横浜市寿地区においてワークショップを開催したほか、地区での勉強会などを通して人的つながりを得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウィルスの感染状況に大きく左右されていることが主な理由である。上述の進捗はあったが、本研究で予定していたドイツへの調査渡航を引き続き延期せざるを得なかったことの影響はやはり大きい。またコロナ禍下で特別の配慮を要する敎育実践への対応により研究時間が圧迫されていることも否めない。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウィルス感染状況が収束しない場合、本研究で予定していたドイツへの調査渡航は断念し、理論的・思想史的研究を中心に進める。 一方で、状況が許し次第、調査を実現させられるよう、準備を進めておく。かねてよりコンタクトのあるベルリンとミュンヘンの「移民による移民支援」の諸団体へ訪問を予定している他、昨年度から文献調査を進めてきた「ポスト移民社会」の主唱者であるNaika Foroutan教授(フンボルト大学)とShermin Langhoff(Maxim Gorki 劇場プロデューサー)両氏の訪問を実現させたい。前回の国際社会学会(2018)でセッションをともにしたMartina Loew教授(ベルリン工科大学)とその研究室の若手研究者たちとはあらためてやりとりを始めている。
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Causes of Carryover |
予定していたドイツへの調査渡航を延期せざるを得なかったことにより残額(次年度使用額)が生じた。これについて、2022年度に渡航できるよう準備中である。 もし、2022年度も新型コロナウィルスの感染状況が収束せず、渡航を断念しなくてはならなくなった場合、オンラインで研究協力を依頼する可能性があり、また現地で資料などを収集してもらう際の謝礼やコピー代が必要となる。他に、比較的大きめの支出が必要なものとして、英語論文の校正費が予定されている。状況に照らして複数の可能性を同時に検討しつつ、柔軟に対処していく予定である。
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