2017 Fiscal Year Research-status Report
商業者の視点からみた産業遺産のローカルな歴史的価値に関する研究
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17K13865
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Research Institution | Konan Women's University |
Principal Investigator |
木村 至聖 甲南女子大学, 人間科学部, 准教授 (50611224)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 産業遺産 / 世界遺産 / 産炭地 / 記憶 / 商店街 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究の初年度は、まず大牟田市立図書館(福岡県)に寄贈されている郷土史家が収集した歴史資料、および東京の三井文庫に所蔵されている近代資料の収集を行なった。具体的には、調査対象地である大牟田で、三池争議前後の商店の様子を知る資料として、同時期の商店街に関する新聞記事(大牟田日日新聞)および新旧労組などによって発行されたビラ、その後の変化を把握するための資料として大牟田市商工会議所によってまとめられた1950~1990年代の『商工要覧』、三川町の商店の分布が把握できる地図などを収集した。また、地元商店と炭鉱会社が設置する購買会との関係を知るため、東京の三井文庫にて『三池鉱業所沿革史』および『三井鉱山五十年史稿』などの歴史資料を収集した。これらの資料については現在整理・分析中である。 こうした資料調査と並行して、現在大牟田市内で商店を営む商業者への聞き取り調査も実施し、まちづくりへの関与、とくに三池炭鉱関連の産業遺産の活用に関する考えなどを聞き取った。とくに三川地区の商業者を中心に結成されているNPO法人「三池港未来のまちづくり会」の中心メンバーについては、こうしたことに加えてライフヒストリーについても聞き取り、現在のまちの様子についての思いや今後の展望について詳しく話を聞いた。 また、本研究の理論面での展開として、「文化遺産の社会学」に関する社会学者による研究会を3回実施し、各地域での文化遺産の保存と活用の事例の情報交換も行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、地域社会における産業遺産のまちづくりへの活用事例が増加するなかで、その表象が「世界遺産」や「国家の近代化」という枠組みで語られる傾向が高いことに対し、あらためてそのローカルな歴史的価値を掘り起こすことを目的としている。とくに今日の日本では石炭産業という主要産業の撤退および労働者の流出によって、炭鉱の記憶とその表象の主体が地元商業者中心に変化し、地域史の語り直しが起こっているという仮説のもと、それが1)どのような商業者によって、2)どのように語り直されつつあるか、3)その語り直しが実際に地域の産業遺産の保存活用にどのような影響を与えつつあるのかを検討しようとするものである。 初年度はとくに1)に関わり、世界遺産に登録されている「明治日本の産業革命遺産」の関連施設(三池港、および登録施設ではないがその関連施設である三川坑跡)に近接する大牟田市の三川地区に注目し、同地区に関する歴史資料の収集を進めつつ、商業者への聞き取り調査も実施した。商業者への聞き取りはまだケース数が少ないという点で次年度以降の課題は残るが、歴史資料の収集については郷土史家などの協力もあり貴重な資料にアクセスすることができた。その点でおおむね研究は順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
二年目は、初年度に収集・整理した資料の分析結果に基づき、そこからみえてくる炭鉱と商店街の歴史的関係が、現在の商業者による産業遺産の表象実践にいかなる影響を与えているのか/いないのかについて、さらなる聞き取り調査もあわせて考察を進める。また、実際に産業遺産の表象が新しいアクターによって語り直される際、「世界遺産」という言説・スケールの影響をどのように受けるのか/受けないのかを明らかにするために、比較事例の調査を行なう。とくに世界遺産登録後の事例として、富岡製糸場のある群馬県富岡市、端島炭坑跡(通称・軍艦島)のある長崎県長崎市、また初めから世界遺産を目指さずに産業遺産の保存活用を進めた事例として北海道赤平市などに注目する。そしてそれぞれの地域の取り組みについても、商業者からみた近代産業という視点から整理し、比較分析を行なう。こうした研究の成果は、国内外の関連文献から得られた理論枠組みも利用しながら、研究論文としてまとめ、『社会学評論』などの社会学専門誌に投稿する予定である。
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Causes of Carryover |
研究計画自体はおおよそ予定通り進んだが、シーズンによって変動する旅費(宿泊費および)が若干節約できたため。
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Research Products
(1 results)