2017 Fiscal Year Research-status Report
日本とデンマークにおける子どもを主体とした親支援の実践に関する研究
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17K13892
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
佐藤 桃子 同志社大学, 社会学部, 学振特別研究員(PD) (10792971)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 児童福祉 / 社会的養護 / 親支援 / ファミリーグループカンファレンス / デンマーク / 北欧 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、社会的養護など課題を抱える子どもと家庭への支援の仕組みが大きく見直しを求められている日本の現状を背景に、主にデンマークに焦点を当て、新たな親支援の仕組みがどのように実践されているかを明らかにすることを目的としている。また、家族への支援は同時に、家族と地域社会との関わりを促すことでもある。日本とデンマークでそれぞれ、専門職とボランタリーな支援者が実践の中でどう位置付けられているか、地域社会と社会的養護の仕組みの位置づけについても分析を行う。 特に本年度は、9月から半年間デンマーク・ロスキレ大学での在外研究中に、フィールド調査や現地での資料収集などを行った。デンマークでは専門職主導の課題解決から家族・子ども本人を中心とした支援への転換が起こっていることを資料研究からまとめ(「デンマークにおける「子どもの権利」の発展と子ども家庭福祉システムの変化」『都市問題』第108巻2017年9月号)、その中でも現在親支援の仕組みとしてファミリー・グループ・カンファレンス(FGC)の実践が広がりを見せていることが分かった。このFGCの実践について、デンマーク国内で実践者を対象にヒアリング調査を行い、これまでの専門職主導のソーシャルワークから、子ども本人の視点をより大切にする家族へのソーシャルワーク手法としてFGCが実践されていることを明らかにした。FGC実践の研究の成果として、デンマークのFGC実践について歴史的な経緯と各自治体の動き等をまとめ、2017年12月に行われた日本子ども虐待防止学会(千葉県幕張)にて「デンマークの社会的養護における「家族」の位置付け」というタイトルで口頭発表を行った。 日本での親支援の取り組みについては、大阪市で行われているMY TREEペアレンツプログラムの実践、滋賀県の子ども食堂の実践などを対象にフィールド調査を続けている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究では、特にデンマークと周辺の北欧諸国での家族支援の実践やファミリー・グループ・カンファレンス(FGC)実践について、在外研究中にインタビュー調査を行い、各地の実践者や研究者とネットワークを作ることができた。日本では子ども食堂の実践を中心に調査を行っているが、在外研究を受けてさらに家族支援の視点で調査を行うことが肝要だと感じる。 デンマークでは、FGC実践のパイロット・プロジェクトを始めた実践者を訪問して歴史的な経緯を追うとともに、Horsens市、Esbjerg市などで現在「コーディネーター」としてFGCに関わっている実践者たちにインタビュー調査を行った。また北欧4カ国ネットワークが主催しているFGC実践に関する学会「Nordiska familjeraadslagskonferensen」(2017年11月6-7日、スウェーデン)に参加し、多くの実践者や研究者と交流・情報交換ができたことは、本研究の今後の展開にも大きく影響するだろう。 FGC実践だけでなく、家族に焦点をあてた支援の現状として、在宅での取り組みや対話実践などにも注目して調査を行っている。対話を用いた実践については、精神科領域でオープン・ダイアローグを先進的に実践しているケロプダス病院(フィンランド)の視察に2018年2月に参加した。オープン・ダイアローグは治療に家族や地域のネットワークが参加するという手法から、社会資源と連携して家族を支援することに重きを置いて実践が行われている。精神障害の親を持つ子どもへの支援についても知見を得られた。デンマーク国内ではソーシャルワーカー養成に関わる高等教育機関UCSYD(University College South Denmark)、University College Absalonを訪問し、児童福祉分野の研究者たちと情報交換・意見交換を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、専門職主導で子どもの処遇を決定していた従来のソーシャルワークの考え方が転換していることに注目し、家族や子ども本人を意思決定過程に関与させるデンマークでの取り組みに焦点をあてている。2017年度のデンマークでの在外研究中に、デンマーク国内だけではなく周辺の北欧諸国でのファミリー・グループ・カンファレンス(FGC)の実践者ともネットワークを作り、北欧の中でもその推進の方法や拡がりの度合いがさまざまであることが分かった。 日本子ども虐待防止学会で発表した「デンマークの社会的養護における「家族」の位置付け」は、デンマークでの実践に関する研究の端緒であり、今後の研究発表の第一段階となるものである。今後はインタビューデータの分析を進めてより詳細なデンマークでの実践の考察を行うこと、デンマークだけでなく北欧諸国で親支援の実践がどのように位置づけられているかを検証すること、またそれらから導き出される日本でのFGC実践の可能性などを探っていくことを課題としている。 また、FGCだけでなく同様に当事者の参画に焦点をあてた家族支援のプログラムは多くの国で実践されており、それらとFGCの差異と共通点を体系的に理解することも必要である。さらに、家族を支援するという視点で特に日本ではどのように実践が進められてくのか、日本国内でも調査を進めたい。その際、家族を支援するという場面で、特に北欧と比べて公的な福祉サービスが充実していない日本では、地域社会がどのように関わっていくのか。ボランタリーな支援者の役割も明らかにしていく。
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