2017 Fiscal Year Research-status Report
発達障害者の「親当事者」組織と多様なアクターの協働による地域生活支援に関する研究
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17K13894
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Research Institution | Seinan Jo Gakuin University |
Principal Investigator |
通山 久仁子 西南女学院大学, 保健福祉学部, 講師 (60389492)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 発達障害 / 親当事者 / セルフヘルプ / 地域生活支援システム / 協働 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、発達障害者の「親当事者」組織と多様なアクターの協働による地域生活支援が可能となる要件のひとつである「親当事者」組織の持続可能性について、組織の担い手の主体形成の観点から検討を行った。この課題検討のため、2014年度科研費若手研究(B)「『発達障害のある人の親』による地域福祉活動の生成・展開過程に関する研究」でヒアリング調査を行ったNPOのうち、障害福祉サービス事業所などを幅広く運営し、フォロアーとなる次世代の親とともに、親の属性を持たない幅広い支援者のフォロアーを有する「親当事者」組織を分析対象とした。この組織の30年以上にわたる展開過程の分析から、持続可能な組織体を形成してきた方法について検討した。 分析の結果、団体の活動では、初期段階より子どもへの理解をうながすための専門職への働きかけが行われており、その中で理解者を拡大し、活動の支援者や事業の担い手を得ていたことが明らかとなった。つまり「親当事者」の切なる思いの共有が、ミッションを実現化できる協力者を得ることにつながっていた。また子どもの育ちのなかで自身も疎外を経験してきた「親当事者」の組織であるからこそ、異質性をもつ他者をも包摂していこうとする理念があった。加えて団体の行う地域福祉活動は、小野達也(『対話的行為を基礎とした地域福祉の実践―「主体‐主体」関係をきずく』(2014)ミネルヴァ書房)のいう「対話的行為」が基盤となっていることが特徴的であった。実践の基盤には常に対話があり、これによって誰もが活動に参画できる平等な関係性を築くことができ、困難な状況の中でも実現可能な現実的な選択を生み出すことにつながっていた。この「対話的行為」が団体の継承性とも深く関わっており、他者との対話を通して練りあげられてきた理念であるからこそ、それが後継者の中にも根づき得ることが考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の課題は、発達障害児者およびその家族のための地域生活支援システムを構築していくにあたり、発達障害のある人の親がその当事者性(=「親当事者」性)を基盤として行う地域福祉活動の有効性に着目し、「親当事者」組織と多様なアクターとが協働して地域生活支援システムを構築し、それを維持していくための具体的な方策を提示することである。「親当事者」は本研究の主要概念で、障害当事者を家族員にもつことを通して生じる社会的生活困難を契機に、自らのニーズを社会的に顕在化させ、社会を変革する主体となり得る障害のある人の親を指す。 平成29年度は、1)「親当事者」組織の持続可能性について、組織の主体形成・人材育成の観点からの検討と、2)発達障害者支援センターのある各自治体における発達障害児者支援施策の動向の分析を課題としていた。1)の課題については、ヒアリング調査の結果の分析により、当事者の切実なる思いの共有、他者性の包含と小野(2014)「対話的行為」が団体の持続可能性の要素となることが明らかとなった。 2)の課題については、発達障害者支援センターが設置されている、47都道府県、20指定都市において策定されている障害福祉計画の経年変化より、各自治体の発達障害児者支援施策について分析することとしていたが、現在分析段階である。障害福祉計画は平成18年度より3か年ごとに策定されており、現在は第4期計画期間が終了している。今後、各自治体の発達障害児者支援施策の経年変化について分析を行い、平成30年度以降の発達障害者支援センターへのアンケート調査へとつなげていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、1)発達障害者支援センターのある各自治体における発達障害児者支援施策の動向の分析、2)各自治体における発達障害児者支援システムの実態把握と、3)各自治体の発達障害児者支援システムにおける「親当事者」組織の位置づけについて分析することを課題とする。 1)の課題では、発達障害者支援センターが設置されている、47都道府県、20指定都市において策定されている障害福祉計画から、各自治体間の発達障害児者支援施策の比較分析および経年変化について分析する。 2)の課題では、発達障害者の地域生活支援の中核の機能を担う発達障害者支援センターを対象としたアンケート調査を実施し、全国88か所の各自治体における発達障害児者支援の取り組み状況とその内容、発達障害児者支援システムの課題を分析する。アンケートの主な項目は、①発達障害者支援センターの事業内容、②発達障害者支援体制整備の事業内容、③発達障害者支援地域協議会の組織化、④発達障害児者支援に関わる自治体独自の取り組み、⑤「親当事者」組織の参画状況、⑥自治体における発達障害児者支援の課題とする。調査票作成にあたっては、北九州市発達障害者支援センターつばさへプレ調査を依頼し、調査項目の検討を行う。 3)の課題では、2)のアンケート調査をもとに、各自治体の発達障害児者支援システムにおいて、現在「親当事者」組織がどのように位置づけられているのか、「親当事者」組織と専門職とが協働関係にあるのか、あるいは専門職主導や当事者主体の取り組みであるのかなどを分析する。そして各自治体における発達障害児者支援施策の現状と、「親当事者」組織の位置づけから、各自治体における発達障害児者支援システムのあり方を検討する。
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Causes of Carryover |
各自治体の障害福祉計画収集のための郵送費を計上していたが、インターネットよりダウンロード可能であった。 次年度のアンケート調査の郵送費および資料収集費に使用予定である。
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Research Products
(1 results)