2019 Fiscal Year Research-status Report
発達障害者の「親当事者」組織と多様なアクターの協働による地域生活支援に関する研究
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17K13894
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Research Institution | Seinan Jo Gakuin University |
Principal Investigator |
通山 久仁子 西南女学院大学, 保健福祉学部, 講師 (60389492)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 発達障害 / 親当事者 / 地域生活支援 / 協働 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和元年度は、発達障害者の「親当事者」組織と多様なアクターの協働による地域生活支援が可能となる要件のひとつである「親当事者」組織の持続可能性について、組織を継承するフォロワーの主体形成・人材育成の観点から実証的な検討を行った。すなわち平成31年度研究において、フォロワーの主体形成を促していくためには、団体のミッションやアイデンティティを意識化できるような取組みを意図的に行っていく必要があること、またメンバーにとっての居場所機能を団体が追求していくこと、加えて団体の発起人が担ってきた組織運営を、次世代の核となるメンバーらの役割分担によるマネジメント体制へと移行していく必要性があると分析した。令和元年度はこの分析にもとづき、「親当事者」組織に属するリーダーおよびフォロワーに対して、インタビュー調査を実施し、分析を行った。 インタビュー対象は、発達障害者支援を地域において先駆的に担ってきた団体で、設立より約30年事業継続してきている団体である。この「親当事者」組織に属する発起人であるリーダー1名、および発起人の後に団体運営を中心的に担ってきたフォロワー7名へのインタビュー調査を行った。その結果、発達障害者支援の体験的知識等の継承は、同じ場での実践や、課題が生じた際の話し合いの場を通して行われていた。またミッションの継承については、職員研修の場で発起人らが団体の沿革を語る機会を設けたり、理事会などの場で議論を行うことを通して行われていた。またフォロワーにとっては、発起人らが代表等を退いた後も、非常勤職員など何らかの形で組織への関わりを継続していることが、相談相手がいるという安心につながっていた。そして発起人のリーダーについても、時代の変化によるニーズの変化や、フォロワーによる組織運営の変化を柔軟に受け入れていく姿勢が、組織の継承において必要であることが考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究の課題は、発達障害児者およびその家族のための地域生活支援システムを構築していくにあたり、発達障害のある人の親がその当事者性(=「親当事者」性)を基盤として行う地域福祉活動の有効性に着目し、「親当事者」組織と多様なアクターとが協働して地域生活支援システムを構築し、それを維持していくための具体的な方策を提示することである。「親当事者」は本研究の主要概念で、障害当事者を家族員にもつことを通して生じる社会的生活困難を契機に、自らのニーズを社会的に顕在化させ、社会を変革する主体となり得る障害のある人の親を指す。 令和元年度は、1)各自治体における発達障害児者支援システムの先進事例の収集、およびそのシステムにおける「親当事者」組織の位置づけについて分析すること、2)「親当事者」組織の持続可能性の条件として、組織の主体形成・人材育成の方法をフォロアー層へのヒアリング調査により明らかにし、団体内外のアクターとの協働によって地域生活支援システムを構築し、維持していくための具体的な方策を検討することを課題としていた。 1)については、今年度は取り組むことができず、次年度以降の課題とし、先進事例の収集、分析を行い、協働において必要な要素の検討を行っていきたい。 2)については、「親当事者」組織のフォロワー層へのインタビュー調査を実施し、「親当事者」組織における人材育成を通した組織の継承に関する検討を行ってきている。次年度以降、フォロワー層の団体における活動歴等をさらに分析することを通して、地域生活支援システムを安定的に供給できるための、組織の持続可能性についての検討を進めていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度は、1)「親当事者」組織の持続可能性の条件のひとつである、フォロワーの主体形成・人材育成の方法について、令和元年度に行ったインタビュー調査の分析を進め、「親当事者」組織が親の属性を持たない支援者との協働によって地域生活支援システムを構築し、維持していくための具体的な方策を検討すること、2)各自治体における発達障害児者支援システムの先進事例の収集、およびそのシステムにおける「親当事者」組織の位置づけについて分析し、自治体における「親当事者」組織への支援策を検討することを課題とする。 1)の課題では、インタビュー調査にもとづき、団体の活動を担う主体形成・人材育成の観点から、持続可能な組織体を形成していくための方法について分析する。分析対象はフォロワーとなる次世代の親とともに、親の属性を持たない支援者のフォロワーを有する団体である。この組織の展開過程とフォロワーの活動歴とを分析し、フォロワーの主体化過程を明らかにする。またこれまで組織に蓄積されてきた体験的知識や支援のノウハウ、ミッションを次世代に継承していく仕組みについて分析し、組織の人材育成の方法について検討する。そのうえで、親の属性をもたない多様なアクターとの協働の具体的な方策について提示することを課題とする。 2)の課題では、各自治体における発達障害者支援システムの先進事例を収集し、そのシステムの中で「親当事者」組織がどのように位置づけられているのか、また「親当事者」組織と専門職とが協働関係にあるのか、あるいは専門職主導や当事者主体の取り組みであるのかなどを分析する。そのうえで、1)の分析と照らし合わせ、「親当事者」の組織活動を維持するために必要な自治体の支援策等について検討する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大予防のための研究会の中止、および出張を伴うインタビュー調査の中止により、研究計画を変更せざるを得なかったため。 次年度も出張を伴うインタビュー調査は実施が困難であるため、事例収集のための図書費、および文献複写等に使用する。
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