2017 Fiscal Year Research-status Report
中高年者のワーク・ライフ・バランスと就業中および退職後の心の健康に関する縦断研究
Project/Area Number |
17K13958
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Research Institution | National Center for Geriatrics and Gerontology |
Principal Investigator |
富田 真紀子 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター, NILS-LSA活用研究室, 研究員 (40587565)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 中高年 / ワーク・ファミリー・コンフリクト / ワーク・ファミリー・ファシリテーション / ワーク・ファミリー・バランス / ワーク・ライフ・バランス / こころの健康 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.目的:本研究は「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」の一部を用いて、中高年者のワーク・ライフ・バランスが就業中の心の健康に与える影響、および退職後の心の健康に与える影響に関する縦断研究である。特に、ワーク・ファミリー・バランス(WFB)の観点から、否定的側面はワーク・ファミリー・コンフリクト(以下、WFC)、肯定的側面はワーク・ファミリー・ファシリテーション(以下、WFF)に着目する。 2.本年度の研究:NILS-LSAは1997年に第1次調査を開始し、現在までに8回の縦断調査が完了している。本研究の対象者は、第7次調査(Time1)と第8次調査(Time2)のWFB尺度の回答者である。本年度の研究実施計画では、既存データ(Time1,Time2)を用いた解析と郵送調査(Time3)準備を予定していた。よって、以下の(1)~(3)を実施した。 (1)解析:2時点の縦断データを用い、WFBと心の健康の関連について縦断解析を行った。WFB尺度は富田ら(2012)を使用し、心の健康を捉える指標は抑うつ(CES-D;Radoloff,1977)、生活満足度(古谷野,1983)、Psychological well-being(西田,2000)を使用した。解析結果から、WFBが向上すると心の健康が増進する傾向が認められた。また、これらの関連には性・年代(中年・高年)による差異が部分的に示唆された。 (2)調査準備:平成30年度から開始予定の第9次調査(Time3)準備、既存データのデータクリーナップ作業を行った。 (3)成果の公表:(1)の結果は学会発表を行い、学術雑誌投稿に向けて執筆中である。 本年度の研究成果は、2時点の縦断解析によりWFBと心の健康には有意な関連が示唆されたことから、さらなる検討を行う上で、重要な知見であると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度はNILS-LSAの既存データ(Time1,Time2)を用いて、WFBと心の健康に関する2時点の縦断解析を行うとともに、平成30年度から開始を予定している調査の準備(Time3)を行った。 解析に関しては、2時点の縦断データ(Time1,Time2)を用い、WFBの規定要因、および、WFBと心の健康の関連に関して基礎解析を予定していた。現在の進捗状況としては、特に、本年度の解析の主眼であるWFBと心の健康との関連に関して、縦断解析(分析方法:潜在変化モデル)による検討を行い、WFBの実現が心の健康の維持・増進に重要であるという仮説を支持する結果が得られた。本邦において縦断解析を用いた同様の実証的知見はほとんどなく、注目すべき結果が得られたといえよう。上述の解析結果から得られた知見については、学会発表を行った。また、本年度は上記の解析に並行して、WFBの規定要因に関する基礎的な情報を得るための解析も予定していた。WFBと個人背景要因、就業に関する変数、社会参加活動等との関連については、解析途中であり、来年度以降においても継続していく予定である。 また、平成30年度に計画している調査の準備、および、既存データのクリーナップ作業は、計画通り進んでいる。なお、調査方法に関しては、当初、郵送法によるフォローアップ調査を予定していたが、詳細で多彩なデータ蓄積が期待される大規模な施設型調査に変更となった。そのため、より成果が見込める予定である。 以上のように、おおむね計画通り進んでいることから、本研究の遂行は順調であると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度以降は、以下の4点を遂行する。 1.蓄積データ(Time1,Time2)を用いた解析:平成29年度の結果を基に、2時点の縦断データ(Time1、Time2)を用い、WFBの規定要因、WFBが心の健康に与える影響に関して、横断・縦断解析を進める。また、中高年者のWFBと退職後の心の健康の関連についても解析を実施する。 2.調査実施(Time3):本研究課題のTime3となるデータ収集は、当初、郵送法による調査を予定していたが施設型調査への変更に伴い、予定よりデータ収集に時間を要し、約2~3年かかる見込みである。調査実施に際しては、調査票作成、データ収集、データのクリーナップ作業、格納を行う。なお、NILS-LSAは「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を遵守して施行されており、調査開始時より当センターの倫理・利益相反委員会で承認を受けている。平成30年度から開始予定の調査も同様の手順にて承認を得て実施する。 3.3時点の縦断解析(Time1-3):平成30年度から開始する調査にて収集したデータを既存データと結合し、本研究課題の基幹項目であるWFB尺度を含む3時点の縦断データセットを作成する。解析は、事前の横断・縦断解析の結果を基に、より頑健なモデルの検証のために望ましいとされる3時点の縦断データを用いて、以下の解析を行う。WFBから心理的健康への影響を検討するため、交差遅延モデル(Finkel,1995)、並行潜在成長曲線モデル(Piccinin et al,2011)の解析を行い、WFBと心の健康の因果関係、WFBの変動が心理的健康の回復や増悪に与える影響を解明する。また、中高年者のWFBと退職後の心の健康との関連も検討する。 4.成果の公表:得られた結果は、学会発表および学術雑誌投稿を行い、公表する。また、当センターのホームページを介して一般向けに知見を示す。
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Causes of Carryover |
1.次年度使用が生じた理由:本研究は中高年者を対象とした大規模な学際的縦断研究(NILS-LSA)の一部として実施している。当初、平成30年度に郵送法によるフォローアップ調査を計画していたが、大規模なデータ収集が可能な施設型調査による第9次調査実施の目途が立ったため、当該研究の基幹項目であるWFBと関連指標に関するデータ収集方法にも変更が生じた。調査方法の変更により、調査実施にともなう経費が当初の予定より必要となる見込みとなったため、初年度の予算を縮小し、次年度の調査費の一部に充てることとした。そのため、当該助成金に繰越しが生じた。 2.使用計画:前年度の繰越金と合わせた研究費を、平成30年度以降の施設型調査実施の費用、および、研究遂行のための費用として、物品費(文具一式、書籍、ネットワークハードディスク、パソコン、パソコンソフト等)、旅費(資料収集および研究成果発表費)、人件費・謝金(対象者の名簿管理、研究補助員への賃金、データ整理、心理調査票作成にかかる費用)、その他(研究成果発表にかかる学会参加費、英文校正費用、投稿料)が必要である。
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