2019 Fiscal Year Research-status Report
九鬼周造の歴史哲学から見た「京都学派教育学」―九鬼と西田の比較研究を基礎として
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17K13972
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Research Institution | Hokkaido University of Education |
Principal Investigator |
古川 雄嗣 北海道教育大学, 教育学部, 准教授 (50758448)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 偶然性 / 運命 / 自然 / 習慣 |
Outline of Annual Research Achievements |
九鬼周造の哲学における、特に「偶然」、「運命」、「自然」の概念についての再考を進めた。特にその歴史・社会的側面に注目し、「運命」と「自然」とを媒介するものとしての「習慣」の意義を考察した。そこから、九鬼の哲学における民族的共同体の意義が明らかになりつつあり、その歴史哲学的性格が次第に垣間見えてきた。九鬼の「習慣」論とそれを基礎とした「民族」の意義への注目、さらにその点でのハイデッガー哲学との関わりについては、従来の研究においてほとんど注目されてこなかったことから、重要な発見であることが見込まれる。他方、それと西田幾多郎の哲学との比較にまでは考察が及ばなかった。 研究業績としては、上記の九鬼研究の成果の一部を、甲南大学人間科学研究所主催・第1回九鬼周造記念講演会において「九鬼周造の人生と哲学」と題して発表し、その内容およびコメンテーターからの質疑に対する応答内容に大幅な加筆を施して活字化した(『心の危機と臨床の知』第21巻)。ただし、当講演は一般市民対象のものであるため、九鬼哲学の概要やその魅力、現代的意義等を、平易に解説・紹介する内容としたことから、上記の九鬼哲学における歴史哲学的側面についての踏み込んだ発表にまでは至らなかった。その点についての踏み込んだ考察は、佐伯啓思主幹の雑誌『ひらく』に論文化して掲載することを度々依頼されていたが、後述する理由により、その時間を確保することができなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
第一に、前年度に発表した単著 『大人の道徳―西洋近代思想を問い直す』の反響が大きく、それに関連する多くの講演や執筆の依頼があったこと、第二に、前年度に引き続き、「大学改革」をめぐる研究に関しても、依然反響が大きく、多くの講演や執筆の依頼があったこと、が挙げられる(ただし、両者とも、そのうちの一部は新型コロナウイルスの影響で中止となった)。そして第三に、これも前年度に引き続き、某政府関係機関(規定により公表不可)の委員業務遂行のために、研究計画立案時には想定できなかった極めて膨大な時間を費やさざるを得なかったことが挙げられる。とりわけ、今年度は、当機関内において著しい組織的不正行為と思われる事案が発生し、それへの対応のために凄まじい時間と労力を奪われた。当該の不正(と思われる)行為は、我が国の哲学・倫理学の研究・教育の質と公正性とを著しく損なうものであると考えられたため、公共的利益の保守のために、自身の研究の大部分を犠牲にせざるを得なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
九鬼哲学の歴史哲学的側面についての研究は極めて重要であるため、まずはこれを引き続き継続し、それを論文化して公表することを計画している。 他方、『大人の道徳』の反響が大きく、現在も道徳教育や市民教育をめぐる依頼論文の執筆を複数予定している。これらは主として共和主義の思想史・政治理論に関するものである。ところで、共和主義の政治哲学においても、偶然性、運命、自然、あるいは習慣といった概念は極めて重要な位置を占めている。そこで、九鬼哲学研究を基礎として共和主義思想におけるこれらの概念を再考することで、新たな解釈が導かれる可能性が浮上してきている。すでに共和主義思想研究の専門家から共同研究の提案も受けており、具体的な研究に着手しつつある。当初の西田哲学との比較研究という研究テーマからは逸れることになるが、研究活動の遂行の結果として思いがけず浮上した新たな可能性として、追求することを計画している。この方向性での研究は、結局は九鬼哲学を歴史哲学、さらには政治哲学へと発展的に解釈し、その上でその教育哲学的意義(特に道徳教育・市民教育の理論的基盤)を探究することを意味するものでもあることから、当初の研究計画に著しく齟齬を来すものではないと考えている。
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Causes of Carryover |
前年度に遂行する予定であった多くの研究計画が、既述の理由に基づく研究時間の大幅な減少より、次年度に持ち越されている。必要な物品、書籍の購入、及び研究協力者との打ち合わせのための旅費に使用することを計画している。
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Research Products
(6 results)