2017 Fiscal Year Research-status Report
海と人との関係の編み直しとしての海洋教育の基礎理論研究
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17K13975
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田口 康大 東京大学, 海洋アライアンス, 特任講師 (70710804)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 海洋教育 / 対話 / 物語 / 身体 / 映像 / 記憶 / 記録 / 顔 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究「海と人との関係の編み直しとしての海洋教育の基礎理論研究」は、2011年の東日本大震災以降の社会的課題である「人々の海からの疎外状況」に対して、海と人との関係の編み直しの営みとして「海洋教育」を位置づけることで、海洋教育をめぐる混乱状況を整理し方向づけるための理論基盤を提供することを目的としている。海との関係の編み直しのために、本研究においては、海との関係の「意味」を解釈学的に再解釈する能力およびそれを可能にする対話空間の形成に着目している。最終的には、海と人との関係の編み直しの営みを意義付ける「海洋教育学理論」の構築を目指している。 本年度は、物語論的歴史哲学理論の分析および理論に基づいて行われている実践分析とともに、実際に対話空間の形成に取り組んだ。東日本大震災をテーマとするいくつものドキュメンタリー映画の中でも、特徴的な方法論でもって新たな表現を生み出した酒井耕・濱口竜介による『なみのおと』(2011年、142分)に着想を受け、映像作家の福原悠介とともに「対話インタビュー」という場づくりを実践した。対話インタビューは、インタビュアーが一方的に質問をして情報を聞き出すかたちではなく、誰かに何かを聞くことをきっかけに、お互いのあいだに「対話」が生み出されていくような場づくりを目指すものである。その際、語り手と聞き手が向き合い語り合う様子を、二台のビデオカメラで二人それぞれを同じように撮影し、対話を「映像」として残すことで、一度閉じられた対話からさらに新たな対話が生まれていくことを試みた。実践したのは、岩手県立種市高等学校、宮城県石巻市荻浜中学校、宮城県気仙沼市小原木地域の三箇所である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は理論研究に重点を置く計画であったが、実践先との調整が進んだために早い段階での実践が可能となった。当初予定していた実践件数よりも多くを実践できたことは、今後の研究をさらに深めることにつながると思われる。理論研究については予定よりも進めることができなかったが、実践を経たことで理論研究に明確な視点が得られた。このことで理論研究の方向性と内容について再検討をすることとなり、結果として、計画よりも詳細かつ包括的な研究を遂行することが可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度は、記録と記憶に関わるメディア・理論研究として、ある特定の事象についての意味形成の営みに着目する。地域の記憶を保存し継承を試みるメディアとしてのミュージアム、口承文化に焦点をあてるオーラル・ヒストリー、フィクション・ノンフィクションを問わずイメージを残す映像メディア。空間、声、映像といったそれぞれのメディアを取り上げ、それぞれがもたらす意味形成の特徴について理論分析及び実践分析を行う。 また、現在特に関心を持っているのが、人間存在にとっての対話の意味と身体の関係についてである。対話者同士にカメラが向けられている対話インタビューにおいては、その不自由さが普段とは異なる自分のありかたを可能とするためか、普段は言えなかったことを言えたり、抑えていた感情が表出したりする、一種の儀式的な空間が構築されている。この対話空間そのものについて分析を試みるに際してもいくつかの視点があるが、私は対話者にとっての身体の意味について分析を試みたい。カメラを向けられての対話においては、相手に見られている身体、カメラに映されている身体、見られている・映されていることを意識している身体など、身体と自分との関係の間にいくつもの層が生まれていることに気づく。このことは、自分自身をどう認識するかということとも結びついていると考えられるため、発話内容・対話内容にも大きな影響があるのではないかと考えている。そこで、2018年度は、対話と身体の関係について分析を行い、その上で意味形成の営みについての分析へと結びつけていく。
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Causes of Carryover |
2017年度は実践に注力したため、理論研究用の書籍購入支出が少なくなっている。2018年度は理論研究に注力するために、書籍購入にかかる支出がその分増加する予定である。また、人件費・謝金については、2017年度からの実践が継続中であり、終了時点で請求となるため、2018年度内に支出が行われる予定である。その他の支出については、当初計画通り遂行する。
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Research Products
(6 results)