2017 Fiscal Year Research-status Report
レヴィナスの宗教的テクストにおける教育思想:近代ユダヤ教育思想史の構築に向けて
Project/Area Number |
17K13977
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
平石 晃樹 金沢大学, 学校教育系, 准教授 (00786626)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | レヴィナス / 教育哲学 / 教育思想史 / ユダヤ教育論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、レヴィナスの「宗教的テクスト」における教育思想の解明を目的とするものである。研究初年度に当たる本年度は、研究計画に従って、レヴィナスの解釈理論を主たる検討対象とし、書物の解釈を通じて受容される「教え」の内実を理論的に把握することを目指して研究を進めた。 1)レヴィナスの解釈理論の骨子を抽出すべく、『4つのタルムード講話』序論等の一次文献の読解と分析を行った。その結果、レヴィナスは、とりわけ当時隆盛を誇っていた構造主義的アプローチから距離を取りつつ自身の解釈理論を彫琢していること、そして、書物の読解がもたらし得る「教え」は、当の書物が語りうる意味の「豊饒性」・「現代性」・「普遍性」に拠るということが明らかにされた。 2)解釈を通じた「教え」の受容において前景化する伝統と伝承の問題については、ガダマーの『真理と方法』やリクールの『解釈の葛藤』など、特に同時代の解釈学の知見を踏まえつつ考察を深めた。同時に、カトリーヌ・シャリエ『伝達する、世代から世代へ』等の研究を参照しながら、ヘブライの伝統における「教え」の伝承に関する基本知識の習得に努めた。さらに、より広く教育と伝統というテーマに関連して、伝統の摩耗における教育の危機という認識に基づき、教育者は「世界への責任」を引き受ける義務を負うとするアレントの教育論の読解に取り組んだ。この作業は次年度に予定している研究を先取りするものであるが、結果として、教育という主題のもとでレヴィナスとアレントを相互に読み解く見通しが得られたため、今後の研究の方向性をより一層明確にすることができた。以上の研究を進める過程で得られた着想の一端を『教育哲学研究』誌上で発表した。 3)パリにてレヴィナスのユダヤ教育論に関する文献収集を行った。この一次文献に関する読解作業は次年度に本格的に行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
レヴィナスの「宗教的テクスト」においては、書物を介した「教え」が重要な位置を占める。このことに鑑みれば、本年度の研究は、本研究全体の礎を築くものであると言える。 本年度の研究を通じて、レヴィナスが明示的な参照を惜しまないリクールの解釈学の検討、また、ヘブライの伝統における「教え」の伝承をめぐる基礎的な知識の習得については、次年度も継続して取り組む必要性が認識された。しかし、テクストを「教えをもたらすもの」と見なすレヴィナスの解釈理論の根本原理については、一次文献の読解や関連する先行研究のサーヴェイを通じて一定の見解に到達することができたため、当初の目的は達成できたと言える。また、レヴィナスのユダヤ教育論に関する一次資料の収集については満足のいく成果が得られたことに加え、アレントとの比較検討等、今後の研究の課題と方向性を明確にすることができたため、次年度の研究に向けて着実な準備ができたと言える。 以上より「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画にのっとって、次年度は、レヴィナスのユダヤ教育論の読解を研究の主軸とする予定である。その十全な理解には、各々の論考が置かれた社会的・歴史的コンテクストの把握が不可欠となる。そのため、関連する二次文献について大規模な調査を行う必要がある。 以上を前提としつつ、多岐にわたる事柄を論じているレヴィナスのユダヤ教育論を読解する際の統一的な解釈枠組みとして、当初の計画通り、「責任」という主題を設定する。その際、レヴィナスの倫理思想そのものを「教育という営為を支える責任」という観点から改めて見直しながら、彼の「哲学的テクスト」と「宗教的テクスト」を往還的に読解する作業が求められることになる。この作業から出発して、本年度の研究成果を踏まえつつ、アレント等の他の思想家と対話させながらレヴィナスの教育思想の独自性を解明してゆくこととする。 これらの研究の成果に関しては、ある程度のまとまりや一定の見解が得られた時点でその都度効率よく発表できるよう努めたい。
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