2018 Fiscal Year Research-status Report
レヴィナスの宗教的テクストにおける教育思想:近代ユダヤ教育思想史の構築に向けて
Project/Area Number |
17K13977
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
平石 晃樹 金沢大学, 学校教育系, 准教授 (00786626)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | レヴィナス / ユダヤ教育論 / 共同体 / 責任 / 教育哲学 / 教育思想史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、レヴィナスの「宗教的テクスト」における教育思想の解明を目的とするものである。研究二年目にあたる本年度は、研究計画に従って、昨年度に敢行した文献調査の成果を活かしつつ、ユダヤ教育をめぐるレヴィナスの一次資料の読解を作業の中心に据えた。その際、以下の二つの観点を解釈枠組みとして設定した。 1) 第一に設定したのは共同体論という観点である。東方イスラエル師範学校の校長という立場から戦後に発表されたレヴィナスの多くのユダヤ教育論を貫く主題の一つは、第二次世界大戦中に破壊されたヨーロッパのユダヤ共同体――わけてもフランスのそれ――をいかに再生するかというものである。今年度は、まず、レヴィナスのユダヤ教育論が置かれた社会的コンテクストについて関連文献を紐解きながら理解を深めることに努めた。次いで、ユダヤ教育論で論じられるレヴィナスの共同体論と彼のいわゆる「哲学的テクスト」において主題化される共同体をめぐる哲学的思考とがどのように照応し、あるいは断絶しているのかを検討すべく、『全体性と無限』等の著作を合わせて再読した。後者の研究については、その成果の一端を北米レヴィナス学会(NALS)にて口頭発表した。 2) 第二に設定したのは責任論という観点である。「責任」はレヴィナスの倫理思想における鍵概念だが、そのユダヤ教育論では、共同体に新たに参入する未来世代への責任がとりわけ問題となる。そこで、今年度はまず、教育という営為を支えるこのような責任の概念を原理的に解明すべく、レヴィナスの哲学的主著の読み直しを行い、その成果の一部を論文として公表した。また、この作業と並行して、昨年度に得られた知見をより発展させるべく、やはり「責任」という概念を中心に練り上げられたアーレントの教育論等との比較検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は、レヴィナスの共同体論と責任論の哲学的基礎に関して成果を公表することができたが、他方、彼のユダヤ教育論そのものについては、まとまった見解や主張を公にするには至っていない。しかし、今年度の研究により、多種多様な主題を扱うレヴィナスのユダヤ教育論を一定の視座から解釈するための枠組みを確かなものとすることができたため、この「遅れ」は回収不可能なものではないと判断し、「やや遅れている」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度に残した課題をできるだけ速やかに解消しつつ、研究計画通り、ローゼンツヴァイクやブーバーら他のユダヤ思想家による教育論との比較検討に着手する予定である。また、次年度は本研究課題の最終年度に当たるため、その後半では、課題全体の概括的なまとめを行い、今後の研究に関する発展的な見通しが得られるよう努める。
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Causes of Carryover |
発注していた洋書一冊の納品が遅れたため、急遽別の和書を購入した結果、ごく僅かな残額が生じた。この残額は、当該洋書の購入費の一部に充てる予定である。
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