2018 Fiscal Year Research-status Report
近世教育メディア史における「無料」の価値―「施印」に着目して
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17K13981
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 施印 / 出版文化 / 無料 / メディア / 孝学所 / 陰徳 / 揚名 / 教化 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度における研究成果については、以下のような調査と研究に分けられる。 調査面においては、杏雨書屋、大阪歴史博物館、玉川大学、筑波大学、東洋大学、早稲田大学、国学院大学、成田山仏教図書館を尋ね、多くの施印の複写を行った。また、早稲田大学(1点)と内藤記念くすり博物館(4点)の資料に関しては、撮影後にそのデータが当機関によりウェブ公開され、広く研究者へ提供することが可能となった。『摺物総合編年目録(第二稿)』6184枚のデータを確認し、内53の施印があることが確認できた。しかし、原データに見落としもあるため、東京大学史料編纂所にて、現物複写の確認に努め、来年度に完成する予定である。 研究面においては、特に以下二つの成果が重要であると考える。第一に、近世後期京都にあった「孝学所」の施印の思想・書誌的分析を通して、その活動の背景には「陰徳」と「揚名」への志望の葛藤が存在したことを明らかにした。前者が仏教、後者が儒教文脈の観念であるため、研究史上でまったく別々に論じられてきたが、「施印」のレンズを通して、それらが交錯する課題として浮上してきた。第二に、『大坂本屋仲間記録』における施印の取り扱いを調査して、「施印」の定義を動揺させる、いくつかの重大な発見があった。一つは、当時、「施印」がすでに出版ジャンルとして認識されていたこと。二つ目は、現代の定義とは異なり、当時の「施印」は必ずしも「教化」を目的とするわけではなかったこと。そして最後に、「施印」の無料の性質からして、もとより本屋仲間管理外のはずだが、例外的に取り締まる場合もあったこと。 前者の成果はすでに論文として雑誌掲載が決定したが、後者については、本年度に投稿する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成4‐5年と7‐9年に渡って行われた「幕末・維新期の風聞集等にみられる瓦版・錦絵類の基礎的研究」共同研究によって調査された6184枚の一枚摺が、複写物として東京大学史料編纂所に保管されていることがわかったことで、①一枚摺の「施印」調査を一か所で集中的に行うことができた、②この共同研究でさえ「施印」が多く見落とされたことに、本研究の意義と必要性の傍証ともなった。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度には、施印調査を継続するとともに、既に入手している資料を踏まえて、以下二つの論文執筆に取り組みたい。第一に、『大坂本屋仲間記録』をもとに、施印をめぐる事件を整理し、「施印」の法律上の位置づけを解明する論文。第二に、菱垣元道の施印を分析して、その「無料」に対する思想を明らかにする論文。
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