2019 Fiscal Year Research-status Report
子ども条例による関係的権利の保障と包摂的自治体行政システム構築に向けた実証的研究
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17K14005
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Research Institution | Tokai Gakuen University |
Principal Investigator |
伊藤 健治 東海学園大学, 教育学部, 准教授 (30781471)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 子どもの権利 / 子ども条例 / 関係的権利 / 意見表明 / 権利擁護 / 子ども支援 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、子どもの権利を保障する包摂的な社会・教育システムを実現するために、子ども条例を制定して総合的な子ども・若者施策を積極的に展開する自治体に着目して、その実態を調査することを通して、子ども・若者の権利を保障する包括的な社会・教育システムの構築に向けた展望を探ることを目的としている。 これまでの研究では、先行研究の検討と条例制定自治体を対象とした調査を実施して、子ども条例の実態と課題を明らかにするとともに、現代における子ども・若者が抱える困難の複合性・複雑性を明らかにすることに取り組んできた。さらに、社会の構造的不平等の実態に基づいて子どもの権利論を捉え直すために、フェミニズム法学の分野において盛んに議論されている「ケアの倫理」に着目することによって、個人主義的に理解されてきた権利概念を、子どもの成長・発達に不可欠な配慮(ケア)を公正に保障する関係的な権利概念として捉え直し、子どもの権利研究の理論的精緻化を図った。 特に、当該年度では、自治体施策としての子どもの権利擁護機関に関して、子どもの権利に関する理論的研究と実践的調査研究の両面から検討することを通して、法制度的な課題と展望を探ることを中心に研究を進めた。特に、ケアの理論からの示唆を踏まえた上で、「子どもの権利擁護機関」に期待される役割として、個別の権利救済に止まらない制度改善やモニタリングの機能の重要性を明らかにした。すなわち、子どもの権利擁護機関などの子どもの権利に関する独立した監視機関の役割としては、家庭において適切なケアが提供されていない場合に地域社会の支援ネットワークに繋げたり、学校での困難に福祉的な視点からアプローチするなど、従来の社会構造の中で潜在化していた子どもの困難を明らにすることで既存の支援システムを有効に機能させることが課題となっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
子ども条例に基づく子どもの権利擁護機関について調査研究を進めていく中で、自治体条例によって人権救済機関を設置・運営する上での課題が明らかになった。すなわち、国連子どもの権利委員会の第4・5回総括所見において「地方レベルで33の子どものためのオンブズパーソンが設置されていることには留意しながらも、これらの機関は財政面および人事面の独立性ならびに救済機構を欠いている」と指摘されるように、権利擁護機関の独立性の確保は重要な課題となっている。この点を踏まえて、全国各地の子ども条例に関わる多様な実践事例を幅広く調査することとしていた当初の計画を変更して、子どもの権利侵害状況を改善するための子どもの意見表明に着目して、子どもの権利擁護機関、子ども参加、学校における紛争解決制度(スクールロイヤー等)を中心に調査を進めた。そのため、研究の進捗状況としては、調査の対象及び方法の変更に伴ってやや遅れが生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、理論と実践の往還により子どもの権利に関する研究を総合的に進めていくものであり、これまでの研究で得られた一定の成果を踏まえて引き続き理論と実践の両面から研究を推進していく。最終年度である次年度は、子ども条例の実践事例からも明らかになった子どもの意見表明に関する問題に焦点をあて、子どもの権利条約第12条の意見表明権をめぐる議論を中心に理論的検討を進め、日本教育法学会において研究成果の発表を行う。 また、権利擁護の仕組みとして、スクールロイヤーや教育メディエイターなどによる学校現場における紛争解決について先進事例の調査研究を行う。学校に紛争解決の専門家が導入される背景には、教師と子どもの非対称的な関係性に基づいた閉鎖的・抑圧的な学校文化に対する信頼の低下があると考えられる。学校・教育制度への信頼を築いていくためにも、弁護士やソーシャルワーカーなどの専門職と連携した子どもの権利ベースの問題解決によって、学校現場において子どもの権利の実現を図っていくことが求められる。本研究では、子どもの権利の視点に立って、スクールロイヤーの可能性と課題を明らかにすることを通して、子どもの権利を保障する教育制度や自治体子ども支援施策について検討する。
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Causes of Carryover |
全国の子ども条例に関する多様な実践事例を幅広く調査することとしていた当初の計画を変更して、子どもの権利侵害状況を改善するための子どもの意見表明に着目して、東海地域における子どもの権利擁護機関、子ども参加の取り組みを中心に調査を進めたことによって調査旅費等の執行額が予定より少なくなった。次年度の追加調査及び研究成果公表のための学会発表旅費として執行する計画である。
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Research Products
(3 results)