2017 Fiscal Year Research-status Report
スウェーデンの大学における内部質保証の研究ー「フィードバックと改善」機能の解明
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17K14018
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Research Institution | Aichi University of Education |
Principal Investigator |
武 寛子 愛知教育大学, 学内共同利用施設等, 講師 (60578756)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | スウェーデン / 高等教育 / 質保証 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、新しい質保証枠組において大学の内部質保証の強化を掲げるスウェーデンを事例に、授業評価の結果を学生に「フィードバック」し、「改善」につなげる機能について解明することを目的としている。 スウェーデンは、2016 年より第三次質保証枠組を導入し、大学の内部質保証を強化させることを掲げている。同国は、1960 年代より学生の意見を積極的に聴取しており、学生の「声」は大学の教育改善にとって重要な事項であるとして高等教育法にも記している。学生は大学教育の質保証にとって重要な「パートナー」として位置づけられ、学生の意見を大学教育の質向上に活かすための組織体制が構築されている。例えば、ルンド大学では、授業評価の結果を大学の教育評価に活用している。具体的には、同大学では授業評価の結果を学内で分析し、分析結果を学内で共有し、さらに学生にフィードバックすることで、各学部やコースの教育を評価している。授業評価の結果を学生の個人の経験と学修を把握するための効果的なツールとみなし、教育改善につなげている。このことについて、2017年8月の東海教育社会学研究会において研究成果の報告を行った。 スウェーデンは、内部質保証において学生の視点に焦点を当てることを掲げており、各大学は、授業評価などによる学生の意見をいかに教育改善に盛り込むかを重視している。大学によって内部質保証の内実が異なるため、まずは学生の視点をいかに質保証に取り入れているのかを考察するために、学生参画による質保証の制度について考察を行った。この研究成果は、2018年3月に刊行された『比較教育学研究』において学術論文として掲載されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの進捗状況は、以下の通りである。 ① 授業評価に関する先行研究の検討を行った。 スウェーデンでは、高等教育法において、授業評価の実施が義務化されている。そこで、同国における授業評価に関する先行研究を分析し、授業評価がどのような議論を受けて制度化されたのか、その背景について精査した。特に、学生による授業評価が義務化された1960 年代に遡って考察する。ルンド大学など複数の大学は授業評価の結果を公開しているので、日本で入手可能な報告書や資料を予め収集し、授業評価の実施方法、質問項目について調査した。 ② 訪問調査の質問項目の検討を行った。 授業評価の結果をいかに教育改善につなげているのかを明らかにすることを目的に、十分な先行研究の検討を行った上で、平成30 年度に実施する調査の質問項目を検討した。質問項目は、各大学における授業評価の実施方法(紙面かWeb か)、分析の際の組織体制、分析結果の活用方法について確認するための項目を設定した。 以上のことから、本研究課題は概ね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
授業評価の回答率を高め、教育内容の有効性を検証するための組織的取り組みを考察することを研究目的とする。また、授業評価の結果を教員と学生とが議論し、教育の改善につなげる方法を明らかにする。そのための具体的な研究方法は以下の通りである。 ① 途中経過のまとめとその報告:授業評価による大学教育の質的向上のための組織体制と、授業評価の活用方法の課題に関するまとめを行い、途中経過として6 月中旬の日本比較教育学会で報告する。 ② 研究成果の精査:学会発表で指摘された問題点などを反映して、研究成果の精査に励む。 ③ 授業評価に関するインタビュー調査の実施、④調査内容の分析:授業評価の内容、実施方法、実施後の分析、分析結果の活用方法、回答率を高めるための工夫、学生への「フィードバック」の方法について確認するためにインタビュー調査を実施する。 特に、学生とどのような意見を交わし、いかに教育改善に取り入れているのか、組織的な授業評価結果の活用方法について考察する。インタビュー調査は、ウプサラ大学、ルンド大学、リンネ大学において実施する計画である。申請者は、スウェーデンにおける質保証研究の第一人者で、国レベルの質保証政策の立案にも深く関与してきたルンド大学のKarl-AxelNilsson 教授から本研究計画に関する助言を得ている。またウプサラ大学の質保証を担当しているAsa Kettis 教授とも本研究テーマについて議論を行うと同時にスウェーデンでの調査について助言を得てきた。さらに申請者はリンネ大学(旧ヴェクショー大学)に中長期にわたり滞在しており、同大学の評価を担当する教員に対するインタビューを実施した。これらの3 大学を中心に授業評価に関する国内の比較分析をすることが可能である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、物品費においてパソコンの購入が先送りになったことが挙げられる。希望したタイプのパソコンからしばらくして新しい型のパソコンが発売されるとのことで、より安定性があるパソコンを入手したかったため、購入を延期した。来年度に海外調査をする前には購入する計画である。旅費に関しては、予定していた通り日本比較教育学会への参加・発表を行った。国内調査や資料収集については、学内の図書館やインターネットを通じて情報を入手することが可能であったため、使用額に差が生じた。学内の図書館やインターネットによる情報収集によって、学会発表や紀要の論文を執筆することができたため、研究遂行に問題は生じなかった。書籍については、高等教育関連の書籍を継続して入手する予定である。
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