2018 Fiscal Year Research-status Report
スウェーデンの大学における内部質保証の研究ー「フィードバックと改善」機能の解明
Project/Area Number |
17K14018
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
武 寛子 神戸大学, 国際協力研究科, 学術研究員 (60578756)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | スウェーデン / 高等教育 / 質保証 / 授業評価 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、新しい質保証枠組において大学の内部質保証の強化を掲げるスウェーデンを事例に、授業評価の結果を学生に「フィードバック」し、「改善」につなげる機能について解明することを目的としている。2018年の日本比較教育学会では、複数の大学の授業評価制度を調査することで制度の目的や効果および運営上の問題やその影響について研究した結果を報告した。比較検討の事例として、ウプサラ大学、ルンド大学、リンネ大学を取り上げた。 ウプサラ大学では、学生は授業評価の作成にも関与しており、学生組合が主導して、授業評価をいかに大学で活用するか議論を進めていることが明らかになった。また、教員、学生向けに授業評価セミナーを開催し、授業評価の内容について周知し、理解を深めるための取り組みを行っている。 ルンド大学では、オンライン“Sunset Survey”による評価を実施している。学修成果、学修プロセス、学修活動などについて学生が履修した授業について評価を行っている。学生へのフィードバックは、授業評価の結果をメールで学生と教員に通知する方法をとっている。 リンネ大学では、外部委託による授業評価を実施している。評価の結果をエクセル、ワード、PDF、パワーポイント、SPSSに変換できるシステムを登用し、これを教育改善に活用している。学生は自身のポータルサイトで、授業評価の結果を確認することができる。 大学間比較によって、大学による授業評価の実施体制に差があることが判明した。独自の方法で授業評価を実施する大学もあれば、外部に委託して授業評価を行う大学もある。また、学生の関与の度合いについても、大学間で違いがある。そのため、関与の違いによる授業評価の有用性に違いはあるのか、授業評価の結果を分析する際、教員と学生との間で実際にどのようなやり取りがなされているのか、について次年度において取り組む計画である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現在、育児休暇の取得により研究は中断中であるため、やや遅れが生じている。 研究中断までの進捗状況は、以下の通りである。 ① 授業評価に関する大学の取り組みについて文献調査を実施した。 スウェーデンでは、高等教育法において、授業評価の実施が義務化されている。そこで、ルンド大学、ウプサラ大学、リンネ大学を取り上げ、各大学における授業評価の具体的取組について分析を行った。 ② 訪問調査の質問項目の検討を行った。授業評価の結果をいかに教育改善につなげているのかを明らかにすることを目的に、十分な先行研究の検討を行った上で、来年度に実施する調査の質問項目を検討した。質問項目は、各大学における授業評価の実施方法(紙面かWeb か)、分析の際の組織体制、分析結果の活用方法について確認するための項目を設定した。 育児休暇からの復職後、研究中断までの成果をもとに研究を進める計画である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の二年目の計画に沿って、研究を進める。授業評価の回答率を高め、教育内容の有効性を検証するための組織的取り組みを考察することを研究目的とする。また、授業評価の結果を教員と学生とが議論し、教育の改善につなげる方法を明らかにする。そのための具体的な研究方法は以下の通りである。 ① 途中経過のまとめとその報告:授業評価による大学教育の質的向上のための組織体制と、授業評価の活用方法の課題に関するまとめを行い、途中経過として6月中旬の日本比較教育学会で報告する。 ② 研究成果の精査:学会発表で指摘された問題点などを反映して、研究成果の精査に励む。 ③ 授業評価に関するインタビュー調査の実施、④調査内容の分析:授業評価の内容、実施方法、実施後の分析、分析結果の活用方法、回答率を高めるための工夫、学生への「フィードバック」の方法について確認するためにインタビュー調査を実施する。 特に、学生とどのような意見を交わし、いかに教育改善に取り入れているのか、組織的な授業評価結果の活用方法について考察する。 インタビュー調査は、ウプサラ大学、ルンド大学、リンネ大学において実施する計画である。申請者は、スウェーデンにおける質保証研究の第一人者で、国レベルの質保証政策の立案にも深く関与してきたルンド大学のKarl-AxelNilsson 教授から本研究計画に関する助言を得ている。またウプサラ大学の質保証を担当しているAsa Kettis 教授とも本研究テーマについて議論を行うと同時にスウェーデンでの調査について助言を得てきた。さらに申請者はリンネ大学(旧ヴェクショー大学)に中長期にわたり滞在しており、同大学の評価を担当する教員に対するインタビューを実施した。これらの3 大学を中心に授業評価に関する国内の比較分析をすることが可能である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、今年度当初に妊娠がわかり、産休・育休によって研究を中断していることが挙げられる。 物品費についてはパソコンの購入が先送りになっていることが挙げられる。来年度に海外調査をする前に、薄型で軽量のパソコンを購入する計画である。 旅費に関しては、予定していた通り日本比較教育学会への参加・発表を行った。国内調査や資料収集については、学内の図書館やインターネットを通じて情報を入手することが可能であったため、使用額に差が生じた。学内の図書館やインターネットによる情報収集によって、学会発表や紀要の論文を執筆することができたため、研究遂行に問題は生じなかった。海外調査は、妊娠・出産により海外渡航が困難であったため、来年度に実施する計画である。書籍については、高等教育関連の書籍を継続して入手する予定である。 人件費については、海外調査を計画していたが、妊娠・出産により調査を実施できなかった。来年度に海外調査を実施するので、その際に支出する計画である。
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