2018 Fiscal Year Research-status Report
資質・能力の育成を目指すデザイン思考を導入した言語活動モデル開発に関する質的研究
Project/Area Number |
17K14034
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
細川 太輔 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (70738228)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | デザインシンキング / 小学校 / 話し合い |
Outline of Annual Research Achievements |
アメリカのシアトル、サンフランシスコ、ロサンゼルスのデザインシンキングを導入しているK12school、大学を視察してきた。そこでもっとも学んだことは非認知的能力の育成、特に失敗を恐れない態度の育成の重要性であった。アメリカのsynapse schoolで先生たちと懇談した際に、日本の子どもは新しいアイディアを生み出すのが苦手だと話したところ、synapse schoolの先生は「失敗を恐れているんじゃないですか」とおっしゃっていた。これは多くの日本の教育と逆の考え方である。日本の教育は子どもが失敗しないように教師があらゆる手立てをとり、全員が成功するように仕向ける。synapse schoolでは逆に子どもに有意義な失敗が生まれるように授業を仕組んでいるという。このような非認知的能力の育成が話し合いに重要であるという可能性を見出した。 またデザインシンキングの有名なワークショップであるマシュマロ・チャレンジを小学6年生を対象に仮実践をした。マシュマロ・チャレンジとはスパゲッティの塔を作り、その上にマシュマロを乗せ、高さを競うものである。子どもたちは日本の話し合いの指導を受けているせいか single right planを話し合うことに夢中になり、なかなかマシュマロをのせてタワーを作ろうとしない。そのため1回目はほとんどの班でスパゲッティの塔が自立できず、倒れてしまった。2回目ではマシュマロを乗せる班が出てきて、高さを伸ばしている班が多く出た。ここで行われた会話を分析すると、作りながら話し合うため、問題発見・解決につながる意見が多く出されたり、2つのプランが枝分かれして進んだりと、single right planを作るような話し合いとは違う話し合いが見られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概ね順調に進展しているとしたのは以下の2つの理由がある。 1つはアメリカの学校視察を通して日本の話し合いで欠けているであろう視点がはっきりしてきたことである。日本の話し合いはどうしてもsingle right planを話し合いだけで作り出すことが多い。この活動ではシミュレーションできず、絶対に失敗できない意思決定には重要な問題解決の方法であるが、話し合って決断した後仮に実行してみると新たな問題が見えてきたということは多くあることである。日本でもデザインシンキングのように気軽に形にして話し合うことを導入する価値があることが見えてきた。 2つ目はプレ実践が行えたことである。マシュマロ・チャレンジの良さや欠点もプレ実践したことではっきりと見えてきた。課題が明確になり、次への修正点がはっきりしたことは、次年度の研究実践に向けて明るい材料である。
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Strategy for Future Research Activity |
プレ実践を行い、実践で測定すべき資質・能力が見えてきた。しかし、プレ実践では修正すべき観点も出てきた。 1つはデザインシンキングのワークショップの難易度についてである。子どもたちの中には2回目もマシュマロを乗せずに話し合う班や新しい意見が出ない班も複数あり小学生にはこの課題が難しい可能性が出てきた。そこで小学生がマシュマロを乗せる重要性に気づく手段を考える必要性が出てきた。 2つ目は1回目と2回目の高さの差が2回目で慣れてきたからという可能性が捨てられないということである。今回1回目の話し合いでマシュマロを乗せる重要性に気づき、その結果2回目ではマシュマロを乗せて話し合うことで新しい意見が出るようになると考えた。しかし子どもたちは1回目から問題発見・解決的な話し合いを多くして逆に2回目では新しい発想が出なくなったという班もあった。実験のデザインを再考し、実践を1回のみにし、話し合いだけをさせる班、作りながら話し合う班、マシュマロを乗せながら話し合う班を比較するのが良いであろう。 3つ目は創発が生まれたかという点である。確かに子どもたちは問題を発見し、新たな意見を言っていたが、問題点の改善にとどまり、考えの枠組みを壊して考え直すということはなかった。これではデザイン・シンキングの目指すイノベーションを生み出す話し合いではないと考える。1mなど今までの枠組みではできないタワーを作るよう指示を出すなど工夫が必要であろう。 このような修正点がはっきりしたので、これをもとにもう一度実践をし、データを測定すれば、デザインシンキングを通して新しい意見が生まれるような話し合いの在り方についてエビデンスをもって説明できるようになるとの手応えを得た。
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