2017 Fiscal Year Research-status Report
フランスにおけるキャリア教育を通した市民性育成の理論と実践に関する比較研究
Project/Area Number |
17K14036
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Research Institution | Aichi University of Education |
Principal Investigator |
京免 徹雄 愛知教育大学, 教育学部, 講師 (30611925)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | キャリア教育 / 市民性教育 / 比較教育学 / フランス / 特別活動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、キャリア教育を通した社会形成能力の育成に力を注いでいるフランスの取り組みを比較分析し、公正で持続可能な社会の創造を目指して、役割を選択し行動できる市民を育てるための理論と実践を解明することを目的としている。 今年度は、フランスの中学校の「学級生活の時間」(HVC)について分析し、カリキュラムの面から日本の学級活動との比較を行った。第1に、HVCには学級活動(2)「適当と成長及び健康安全」に相当する内容が見当たらず、個人の問題を学級での活動を通して解決することは、進路関係を除き実践されていない。第2に、HVCではディベートの手法が用いられており、形式的陶冶の側面が強いが、学級活動では話合いを通して、自分も良くみんなも良いと思えることを、折り合いをつけて決めることを目指している。第3に、学級活動では構成員が互いの個性を尊重しながら協力し合うことになっており、集団の目的性、組織性、凝集性が高いレベルで想定されているが、HVCでは日常での役割分担がなく、比較的緩やかな個人の連帯が前提とされている。第4に、HVCが生徒の「自治活動」としての要素を備えており、学校システムへの参画によって市民性を獲得するのに対して、学級活動が接続する生徒会活動は、学校経営の概念とは切り離された「自治的活動」である。第5に、HVCには「認知的領域」が存在しており、教科とのつながりがカリキュラムとして顕在化されているが、学級活動では「自由研究」の廃止以降、教科との関連が不明確になっている。 日本の特別活動は社会性・感情面の育成や非認知能力の発達に有効であるとして、世界的に注目を集めており、上記の比較検討でもその独自性が確認できた。一方で、社会形成能力の育成のためには、「学校づくり」への参画を強化していくこと、カリキュラム・マネジメントにより教科とのつながりを担保していく必要があることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、フランスにおける市民性教育の3つの柱の1つである「学級生活の時間」について分析し、カリキュラムの面から日本の学級活動との比較を行った。その結果、次のような日本の学級活動の特徴が抽出された。第1に、生徒の役割分担と協同によって成立する凝集性の高い集団において、自己決定と個人決定を繰り返すことで、実質的陶冶として市民を育成している。第2に、生徒の教育参加が認められておらず、自治の範囲は限定されるが、「遊び」を中心に子どもの発達に関わる教育的価値を追求している。第3に、カリキュラムの内容面において、教科との関連が明確に担保されてない。 さらに、第2の柱である「道徳・公民科」に関する調査にも着手した。フランスでは、新たに「市民行程」という取組が開始された。これは、小学校から高等学校に至るまで、道徳・公民科を中核に教育課程内外のあらゆる市民性教育に関する活動をマネジメントして1つの「行程」(プログラム)に仕立てるとともに、その経験をポートフォリオとして蓄積することで、市民として成長する「行程」(キャリア)として可視化し、市民性の認証を行う取組である。2018年3月に、市民行程の研究指定地域であるコート・ドール県を訪問し、国民教育局でインタビュー調査を行うとともに、中学校・小学校各1校で授業を観察した。さらに、パリにある国民教育省学校教育総局を訪問し、市民行程およびeポートフォリオの活用に関して、資料収集とインタビューを実施した。これらの実地調査の結果は、次年度に詳細な分析を行う。 以上のことから、研究課題は当初の研究計画に沿って、概ね順調に進んでいると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
1.「道徳・公民科」の理論と実践の調査 政府から発行されている学習指導要領と教師用指導書、および中学校1~3年生の教科書を分析し、実践原理を明らかにするとともに、実地調査でのインタビュー項目を作成する。その上で、キャリア教育および市民性教育の先進地域において実地調査を行う。 2.「生徒代表制」の理論と実践の調査 政府から発行されている生徒代表用の活動ノート、および生徒代表の育成を担当する生徒指導専門員(CPE)向けの指導書を分析し、インタビュー項目を作成する。その上で、キャリア教育および市民性教育の先進地域において実地調査を行う。 3.「市民行程」の理論と実践の調査 当初の研究計画では、市民性教育の3つの柱である「道徳・公民科」「学級生活の時間」「生徒代表制」の3つを個々に調査する予定であった。しかし、2016年度からこれらを包含する取組である「市民行程」が導入された。そこで、「市民行程」のカリキュラムと実践を実地調査することで、その中で道徳・公民科や生徒代表制が市民性の発達においていかなる役割を果たしているかを検討するとともに、それらがどのように連結されているかについても考察したい。まずは、既に実施済みのコート・ドール県での調査結果の分析を行うとともに、さらに調査対象として2つの地区を新たに追加し、12年間を通じた市民育成という新たな挑戦の成果と解題を明らかにする。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由:予定していた海外(フランス)での調査が一部実施できなかったため。 使用計画:次年度においては、海外での調査期間を当初よりも延長する、あるいは調査を複数回実施することで、今回できなった「学級生活の時間」の授業観察・分析を行う。
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