2019 Fiscal Year Research-status Report
フランスにおけるキャリア教育を通した市民性育成の理論と実践に関する比較研究
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17K14036
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
京免 徹雄 筑波大学, 人間系, 助教 (30611925)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | キャリア教育 / 市民性教育 / フランス / 教師の役割 / キャリア・カウンセラー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、キャリア教育を通した社会形成能力の育成に力を注いでいるフランスの取り組みを比較分析し、公正で持続可能な社会の創造を目指して、役割を選択し行動できる市民を育てるための理論と実践を解明することを目的としている。 今年度は、キャリア教育プログラムである「未来行程」に着目して、教員の役割と困難について、特に専門職の職務との関係を視野に入れて明らかにするとともに、改善方策を検討した。研究方法としては、国立学校制度評価委員会が実施した定量的調査の結果、およびストラスブール大学区の実地調査で入手した、キャリア教育困難校の定性的データを分析した。 その結果、近年役割が拡大している教員の意識差が大きく、未来行程の恩恵が一部の生徒にしか行き届いていないことが明らかになった。定量的分析からは、キャリア教育の予算や計画を準備し、組織として協働していく必要性が導出された。特にトップダウンでPDCAサイクルを回しているため、校長の姿勢が大きなカギを握っている。必要な研修を実施するともに、キャリア・カウンセラーが積極的にコンサルテーションを行うことが望ましい。現在のカウンセラーの職務環境をみる限り、全ての生徒を対象とする直接支援は限界に達しており、困難を抱えた層の支援に特化しつつ、マネジメントでより専門性を発揮することが求められる。 担任教員にキャリア教育を担わせるという方向性は、研修と時間不足を解決するという点では評価できるが、カウンセラーのもとで組織的に行動できるしくみを構築しなければ、業務の重複と主導権争いを招くだけである。また、教員の職業アイデンティティを拡散させないためにも、継続教育だけでなく、養成段階にキャリア教育を明確に位置付けて職務の一部として認識させる必要がある。教育行政などによる外側からの支援やeポートフォリオの活用も、多職種を協働させる可能性をもっていることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は、フランスの「未来行程」に着目して、市民生教育としてのキャリア教育において教員がどのような役割を担っていく必要があるか、その際にどのような困難があり、それをどのように克服することができるかについて考察した。さらに、その結果について日本と比較した。 これらの成果については、関連学会に加えて、フランスのパリで開催した日仏キャリア教育シンポジウムにおいて、フランス語で報告した。日本のキャリア教育の特徴は、教科外活動を通して実施される担任教員による集団指導と個別指導にある。しかし、それは教師の長時間労働と表裏一体の関係にある。働き方改革では、進路指導は「教師の業務だが、負担軽減が可能な業務」に分類されており、企業の就職先の情報収集等を民間のキャリア・カウンセラーなどに委託する可能性が示唆されている。フランスで一定の成果が示されているように、専門職や外部人材の活用はキャリア教育の充実のために必要であるが、一方で教員が行うキャリア教育の意義も積極的に評価し、安易な分業に陥らないように留意すべきである。また、経済的・文化的資本に伴う進路格差を是正するために、社会正義に依拠したキャリアを展開しなければならない。具体的には、奨学金の充実などの経済的支援のみならず、教育の真の民主化のために万民に対する文化へのアクセスを保障する「理性的教育学」に基づく実践が求められる。 以上のような進展がみられる一方で、フランスの「学級生活の時間」、生徒代表制、中学校生活委員会については調査の分析が不十分であり、キャリア教育を通した市民性育成のモデルを作成するまでには至らなかった。また、国際学会で成果発表も実現しなかった。このような理由から、補助事業期間の延長を申請し、承認された。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、フランスの市民性教育において重要な位置を占める「学級生活の時間」、生徒代表制、中学校生活委員会に着目し、キャリア教育としての機能を解明する。特に、集団活動を通した目標設定や社会参画がどのように生徒のキャリア意識を規定し、社会的コンピテンシーの発達に貢献しているのか明らかにする。その上で、日本の特別活動(学級活動、生徒会活動)との比較を行う。フランスの学級・学校集団は日本に比べて目的性、組織性、凝集性が弱く、個人の抱える課題を集団全体に共通する問題とみなして、問題解決する文化は存在しない。このような特性をふまえつつ、日本の特別活動の強みと弱みを国際的な視点から分析し、市民性教育としてのキャリア教育の新たな可能性を探る。 その上で、これまでの分析結果をまとめ、公民教育および教科外活動のそれぞれについて、市民性教育としてのキャリア教育のねらい、内容、方法、期待される成果を提示する。さらに、日本の公民科、学級活動、生徒会活動の理念をふまえて、公正な社会の実現に寄与できる構造化された実践モデルを考案する。 一連の成果については、国内学会に論文投稿すると同時に、国際学会において発表し、最終的に報告書としてまとめる。
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Causes of Carryover |
フランスの「学級生活の時間」、生徒代表制、中学校生活委員会について、調査結果の分析とモデル化が不十分であったことに加えて、国際学会で成果を発表できなかったために、次年度使用額が生じた。次年度、分析に必要となるキャリア教育および市民性教育関連図書の購入、および仏語テープ起こし謝礼、国際学会での成果発表旅費として使用する。
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Research Products
(6 results)