2017 Fiscal Year Research-status Report
小学校音楽科における児童の音楽表現能力の育成―音楽の言語化と身体知に着目して―
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17K14041
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Research Institution | Fukuoka University of Education |
Principal Investigator |
山中 和佳子 福岡教育大学, 教育学部, 准教授 (20631873)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 音楽科 / 音楽表現能力 / 言語化 / 身体知 |
Outline of Annual Research Achievements |
身体操作を身体知化する過程に行われるといわれている身体知のメタ認知とそれの言語化に着目し認知心理学,音楽教育学,人工知能に関する研究分野における表現活動の身体性と言語についての知見の整理を行った。また,本研究の中心的視点である①音楽の知識と表現の質との関係性,②音楽活動における「思考」と「言語化」,③音楽事象の言語化と身体知との関係性のうち特に②と③に着目して,小学校現場及びプロの演奏家を対象に音楽事象の言語化の様相,及び表現技能の向上のプロセスを探った。小学校では,第5学年及び6学年に対して器楽学習の授業実践を行った。 実際の授業では,児童は曲想の特徴を聴き取ることができているが,楽器演奏の仕方の違いから生み出される音色の違いについては,言葉で説明することに困難を感じている様子が見られた。また,自分の思いを音で表現するための身体の使い方については,気づきを言葉で表現することができた一方で,実際の表現時には身体操作や音色を意識できていない児童が多い実態が見られた。音の聴取と言語との往還を図る活動をさらに組み込む必要があること,それを支える教師側の言葉がけと学習プリントを工夫することが求められる。 観察したプロの演奏家による大学生へのレッスンでは,教授および意図や意思の伝達方法として(1)言葉による説明,(2)ジェスチャー,(3)模範奏が行われている。(1)については①身体の部位の使い方に関する直接的な言葉,②曲のイメージにあった音色や強弱等を意識させるために身体感覚を呼び起こしメタ認知させるための比喩(自然の風景や日常生活や心情),③音同士の繋がりや構成を意識させる楽曲分析に関する言葉,(2)については①(1)の言葉を補完するようなジェスチャー,②大学生の演奏時に行う指揮のような指示的ジェスチャー,③模範奏時に伝えたい部分を強調するようなジェスチャーに分類できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
小学校音楽科の授業実践の観察については,複数回行えたことに加え,実際に小学校教師の協力を得て学習計画の作成と授業実践を行うことができたため,おおむね順調であるといえる。他方,プロの演奏家に対する聞き取り調査とレッスンの観察及び分析については,日程調整に問題が発生したことにより調査対象の人数が不足している。したがって,総合的に判断するとやや遅れていると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度では,心理学や音楽教育学における知見の整理,及びデータ分析の方法論の検討を踏まえて,音楽事象を表す言語をカテゴライズする視点を抽出する。また,前年度の遅れを受けて,専門が異なる演奏家(特にピアノを含む器楽)の聴き取り調査とレッスン観察の対象人数を増やすとともに,同じ専門についても対象人数を増やして調査する予定である。これらの分析結果を基に,音楽事象を表す言語の類型化を行う。 前年度同様に授業観察及びレッスン観察を継続し,学習知から身体知へのプロセスを検討するとともに,今年度は音楽活動における内的言語について検討する。そのため,小学校現場での授業実践時において高学年の児童,およびプロの演奏家によるレッスンを受けている生徒に対する聞き取り調査を行う。これらの調査結果をまとめて,学会や研究会において報告する予定である。
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Causes of Carryover |
プロの演奏家への謝金について,専門知識に対する謝礼金を演奏会本人が固辞したことによって謝金の支払いが行われなかったため。また,平成29年度の研究状況において演奏家を対象とした調査がやや不足していることから,謝礼金及び出張費の支払いが予定より少なかったため。 平成30年度においては,地方及び都心で活躍しているプロの演奏家を対象とした調査を充実させるため,出張費及び謝金として使用する予定である。
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