2020 Fiscal Year Research-status Report
平和・安全保障政策を考える主権者教育の実証・開発研究
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17K14051
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Research Institution | Shujitsu University |
Principal Investigator |
長田 健一 就実大学, 教育学部, 講師 (30736161)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 主権者教育 / 質的研究 / 熟議 / 平和・安全保障政策 / 集団的自衛権 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度はコロナ禍の影響で中高生を対象とした授業が実施できなかったため、代わりに大学生を対象として日本の平和・安全保障政策に関するディスカッションを行い、その内容を分析した。分析にあたっては、質的研究方法の一つであるグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA:戈木版 2013)を援用し、熟議の普遍・一般的な原理を補う、より個別的な文脈に即した、論争問題学習の原理を見出すことを目的とした。ディスカッションの概要と分析・考察の結果、及び今後の課題は以下の通りである。 【概要】日本の平和・安全保障政策に関する4つの方向性(①非軍事化、②現状維持、③自衛軍の承認、④自衛軍と集団的自衛権の全面的承認)をめぐり、3名の学生達(A、B、C)が議論した。議論開始時点では、Aは②、Cは①を支持し、Bは①か③かで迷っていた。Bは③④、Cは②③④に対して戦争が起こる危険性を懸念していたのに対し、Aは自国を自力防衛できる力を持つことの重要性を訴え、BとCの懸念を払拭しようと努めていた。その過程でAは、どの方向性にもリスクがあり、リスク選択が不可避であることを自覚するに至った。しかしながらAの②への支持は変わらなかった。また、Bは①、Cは②を支持するに至った。 【分析・考察】分析から得られた示唆としての、熟議による論争問題学習の原理は次の点である。①選択肢(政策)に対する懸念やその根底にあるリスク認識を互いに表明し合うことにより、選択肢を通じた相互理解が可能となること。②選択肢に関する言説を、自身の内部と他者の間とで“複線化”する(異なる観点から捉えて語る)ことにより、“固定的な選択肢の選択”から“流動的で可変的な選択肢の共有”へと変えていくことが可能となること。 【課題】今後の課題としては、理論的サンプリングにより、他の事例の分析を重ねることで、より構造的な理論を導き出していくことが挙げられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2020年度はコロナ禍による様々な状況変化があり、次善の策としてのオンライン・ディスカッションは実施したものの、開発した授業計画(平和・安全保障政策に関する熟議)を学校で実施することが叶わなかった。それゆえ、元々の研究計画が遂行できておらず、補助事業期間の延長を申請した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後取り組む必要があるのは、①実験授業の実施、②得られたデータのディスコース分析、③分析結果に基づく、生徒の認識・思考とその変容を説明する理論の生成、④授業モデルの修正である。しかしながら、2021年度に入ってもなお新型コロナウイルスの感染拡大は続いており、学校現場での実験授業実施の可能性は不透明となっている。そのため、引き続き高校ないし中学校での授業実施は探っていくが、当初の計画を変更し、研究代表者の勤務校での大学生を対象としたディスカッションで代替することとしたい。
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Causes of Carryover |
学校での実験授業が実施できなかったことなど、研究計画の全体的な遅れが生じていることによる。補助事業期間を延長した2021年度においては、実験授業の実施(可能な場合)や学会参加のための費用、業者に依頼するディスカッションの文字起こしのための費用、データ分析に用いるソフトや書籍の購入が主な使途となる。また、実験授業(ディスカッション)の実施方法がオンラインとなった場合は、その際に使用するタブレット(もしくは比較的安価なノートPC)を数台購入する可能性がある。
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