2018 Fiscal Year Research-status Report
2次元q分解EELS解析法の構築と熱線遮蔽材電子励起の局在性評価への応用
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17K14075
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
佐藤 庸平 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (70455856)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 電子エネルギー損失分光法 / 運動量移送分解 / 熱線遮蔽材料 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、電子顕微鏡を用いた運動量移送(q)分解電子エネルギー損失分光(q-EELS)測定を、高エネルギー分解能・高運動量移送分解能で取得する手法の確立を行い、熱線遮蔽材料として用いられているCs0.33WO3(CWO)の近赤外領域での吸収の起源について解明することである。
電子顕微鏡を用いたqEELS測定では、横軸運動量移送(q)、縦軸エネルギー損失量に対応した2次元強度分布(E-qマップ)としてデータを取得する。実際に実験で得たE-qマップは、レンズ収差の影響のためq方向が歪むことが明らかになった。そのため、独自の画像補正プログラムを作成し、運動量移送軸とエネルギー損失軸に対して歪みのないデータに補正することを実現した。これまでに検討した実験レンズ条件とデータ解析システムによって、高エネルギー分解能0.2eV・高運動量移送分解能0.04Å^-1のデータが、直径100nm程度の領域から常に得られることを実現した。
これらの測定技術・データ解析システムを用いてCWOから得たqEELSスペクトルの解析に適用した。熱線遮蔽材料であるCWOは、近赤外エネルギー領域にキャリアー電子によるプラズモンピークが観測されることが分かっている。またCWOは六方晶の結晶構造をしているため、プラズモンエネルギーの結晶異方性があることが予想されている。この材料にqEELS測定を適用すると、q//c軸方向では、プラズモンエネルギーが1.8eVのピークが支配的に励起され、q//ab面方向では、1.2eVのプラズモンピークが支配的であった。このことは、キャリアー電子によるプラズモンがc軸方向とab面方向で異なる振動モードが存在していることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
電子顕微鏡を用いたqEELS測定では、各レンズ条件はおおむね確定することができた。実際のデータは、横軸運動量移送量、縦軸エネルギー損失量に対応した2次元強度分布(E-qマップ)として検出している。実際に得られるE-qマップは、レンズ収差の影響のためq方向が歪んだ強度分布をしているため、画像補正プログラムを独自に作成し、運動量移送軸とエネルギー損失軸に対して歪みのないデータを得ることを実現した。同時に、横軸の運動量移送量と縦軸のエネルギー損失量の校正を行う機能を搭載し、実験データの出力を比較的容易に行えるよう工夫している。その結果、高エネルギー分解能0.2eV・高運動量移送分解能0.04Å^-1のデータが、直径100nm程度の領域から恒常的に得られることを実現した。
これらの測定技術・データ解析システムを用いてCWOから得たqEELSスペクトルの解析に適用した。先行研究により、CWOのEELS測定から、近赤外領域に1.2eVと1.8eVの2つのピーク構造が現れることが分かっている。これまでこの2つのピークの起源は明らかではなかった。本測定技術により、q方向をCWO結晶のc軸とab面方向の2つの方位から測定した結果、q//c軸方向では、1.8eVのピークが支配的に励起され1.2eVのピークは急激に減衰していく様子が観測された。またq//ab面方向では、1.8eVのピークが減衰し、1.2eVのピークが支配的に観測された。この実験結果は、キャリアー電子によるプラズモンがc軸方向とab面方向で異なる振動モードを持つことを示している。
以上のことから、本研究課題によりCWO中のキャリアー電子が異方的に振る舞うことを実験的に観測することに成功した。この実験結果は、qEELS測定による解析システムの構築によって初めて明らかになった結果であり、本研究課題は順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、結晶方向に依存した2つのプラズモンピークのq方向の分散関係と、CWOのバンド構造との対応について考察することが重要である。実験で得られた2つのプラズモンのq分散は、自由電子ガスモデルで予想されるqの2乗分散とは異なる分散関係を示し、現在のところ解釈することが困難である。しかしながら、実験的に得られたq分散関係は、CWOのバンド構造を敏感に反映していることが予想されるため、得られた分散関係とバンド構造がどのような関係を示すのか明らかにする。
また、qEELSスペクトルをKramers-Kronig解析を行うことで、異方的な誘電関数を実験的な決定を行う。CWOは、実際の熱線遮蔽フィルター内ではナノ粒子として存在している。2つの異方的な誘電関数(c軸に垂直成分、平行成分)をもとにして、粒子の光散乱をシミュレーションすることで、粒子による光散乱スペクトルを正確に解釈する。また、実験的に観測されているフィルターのスペクトルとの比較を行い、違いを明らかにすることで、理想的な結晶粒子に比べ実際の粒子はどれくらい変質しているのか、考えうる原因について検証を行う。
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Causes of Carryover |
平成30年度は、物品費としてデータ解析に必要なデスクトップパソコンを購入するための予算を計上した。更に測定用標準サンプルとして金・アナターゼを購入した。電子顕微鏡実験用の消耗品を購入するための予算を計上した。物品費で合計\277,520を計上した。本研究課題に関連する成果報告を顕微鏡学会、顕微鏡学会の国際会議、日本金属学会にて報告し、そのための旅費を合計\568,710計上した。 本年度は電子顕微鏡実験に必要な物品の購入を10万円程度で計画している。研究成果を発表するための国内・国際会議の出席を予定しており、旅費を40万円程度計上する予定である。
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Research Products
(2 results)