2017 Fiscal Year Research-status Report
ダイヤモンド表面近傍のNV中心と外部核スピン集団との量子コヒーレント結合
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17K14079
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
石川 豊史 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 研究員 (00717746)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 量子センシング / ダイヤモンド / NV中心 / コヒーレント結合 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は外部核スピンとのNV中心とのコヒーレント結合を行う前のテストとして、NV中心に局在した電子スピンと窒素核スピンとのコヒーレント結合に関する研究を中心に行った。NV中心の量子化軸に平行に振動磁場を印加することで、核スピンとNV中心との間にパラメトリックな量子コヒーレント結合が実現され、そのコヒーレント結合によって核スピンとのもつれ状態の生成、コヒーレント結合と光励起を利用して核スピン状態を初期化できることを理論計算およびシミュレーションによって明らかにした。コヒーレント結合の研究を進めることで、パラメトリックなコヒーレント結合による高効率な量子操作のためには、マイクロ波の位相を制御することでマイクロ波の印加方向をNV中心の量子化軸に平行または垂直に制御する必要があることがわかったため、現在、マイクロ波シミュレーションに基づいてマイクロ波アンテナの改良を進めている。 本年度は新たな試みとして、外部の核スピンとのコヒーレント結合を実現するためのダイヤモンドの機能化の研究も行った。代表者の過去の研究成果であるダイヤモンド表面の加工技術を用いて、サブマイクロメートルサイズの微粒子をNV中心集団近傍に捕捉する機能を付与した。研究提案申請時には、ダイヤモンド外部にある核スピン集団とのコヒーレント結合のテスト試料としてダイヤモンド上に成膜したシリコン酸化膜中のシリコン核スピンを計画していたが、この機能化により、シリコン核スピンではなく磁気回転比のより大きい原子核スピンを保有する固体微粒子を、コヒーレント結合を試みるテスト試料として検討できるようになった。 上記の成果から、本年度はコヒーレント結合のより優れた操作の検討ならびに、優れた量子操作のためのダイヤモンドの機能化に挑戦し、一定の成果を得たと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に記載した通り、量子コヒーレント結合に関する理解が大幅に進み現状での技術課題も明らかになった。パラメトリックな量子コヒーレント結合についての研究成果も2017年秋季応用物理学会にて報告し、その議論を通じてより優れた量子操作についての理解を深めた。その上で新たな技術課題が見つかったために本年度の研究計画からはやや遅れてしまったが、量子コヒーレント結合によるより優れた量子操作のための注意点も明らかになったため、本研究提案の達成目標から見れば、おおむね順調に進んでいると考えている。また、研究計画を超えた新たな試みとして、外部の核スピンとのコヒーレント結合を実現するためのダイヤモンドの機能化の研究も現在進めている。液体試料や固体微粒子をNV中心集団近傍に捕捉する機能を付与するこの技術は、ダイヤモンド量子センシング研究から派生した技術であり、核スピン試料とNV中心集団の距離を近づけ、その位置に固定して核スピンの拡散を防ぐことが可能なので、本研究においてもこの技術の導入を進めている。 上記の成果ならびに進捗から、本年度はコヒーレント結合のより優れた操作の検討ならびに、優れた量子操作のためのダイヤモンドの機能化に挑戦し、一定の成果を得ているので、概ね順調に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
マイクロ波の位相を制御することでマイクロ波の印加方向を制御するマイクロ波アンテナを作製する。そのマイクロ波アンテナを用いて、NV中心に局在した電子スピンとNV中心を構成する窒素核スピンとのパラメトリックな量子コヒーレント結合を実現する。シミュレーションでは、この量子コヒーレント結合では量子操作の他に光励起と組み合わせて核スピン状態の初期化も可能なため、量子コヒーレント結合を用いた窒素核スピン状態の初期化も試みる。 また、固体核スピン試料との量子コヒーレント結合のテスト試料として、ダイヤモンド上に成膜したシリコン酸化膜中のシリコン核スピンを計画していたが、ダイヤモンド表面に微粒子などの測定対象をNV中心集団近傍に捕捉する機能を付与したので、シリコン核スピンよりも磁気回転比の大きく、核スピンからの磁場も強いプロトン核スピンを含んだ水素化ホウ素ナトリウム微粒子を用いて行う。この微粒子はNMRの標準試料としても用いられており、NV中心によるNMR研究との接続性にも優れている。
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Causes of Carryover |
本年度はマイクロ波による量子操作のため、それに関する実験設備を主に購入した。その実験装置のうち、マイクロ波部品(消耗品)が、当初計画していたものよりも安価で、加えて、性能も本研究目標の達成においては十分対応可能であるものが見つかったため、研究予算の節約のためにより安価なものを購入した。次年度使用額はその節約した研究費によって生じたものである。 次年度は測定装置に用いている光学系の性能向上に予算を充てる予定であり、次年度使用額についても、より優れた光学素子や対物レンズの購入に使用することを考えている。
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Research Products
(4 results)