2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K14083
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
鈴木 望 立教大学, 理学部, 助教 (00779845)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 光学分割 / キャピラリー電気泳動 / 両親媒性分子 / キラリティー |
Outline of Annual Research Achievements |
アキラルな両親媒性分子(Achiral surfactant, AS)とキラルな両親媒性分子(Chiral surfactant, CS)が形成する混合ミセルではASが近接するCSにより、CSと似た振る舞いを示すキラル増幅効果が期待できる。ミセルを擬似固定相として用いたミセル動電クロマトグラフィーは微量なキラル医薬品を高分解能で分離可能な手法であり、キラル増幅効果を利用できれば極微量のCSでキラル化合物を分離・分析できる可能性がある。本年度の研究で、AS/CSから成る混合ミセルの分離係数が、CSのモル分率に対して非線形に変化する現象を観測しており、キラル増幅効果が起きている可能性が示唆された。考え得るメカニズムとして以下の3つが考えられる。すなわち、(1)ASが分子取込を阻害する性質があり、結果的にCSと薬物の相互作用が主要になっている。(2)臨界ミセル濃度がASとCSで大きく異なっており、キラルなミセルが相対的に形成しやすい状態にある。(3)ASの立体配座が周囲にあるCSによってキラルな配座に変化し、医薬品の取込易さにも変化が生じている。まず、(1)について両親媒性分子と薬剤が1:1で相互作用したと仮定した場合のモデルを構築し、両親媒性分子の組成と保持係数の関係からCSの方がASよりも薬剤と相互作用しやすいことが定性的に明らかになった。(2)については臨界ミセル濃度をそれぞれのAS/CSの組成の混合ミセルについて調べたところ、わずかにASの方がCMCが大きいものの、概ね同程度であることがわかった。(3)については円二色性スペクトルによって評価を行ったところ、ASは誘起円二色性スペクトルは示さず、立体配座に変化は無いものと考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究で、AS/CSから成る混合ミセルの分離係数が、CSのモル分率に対して非線形に変化する現象を観測できたことは、本研究の目的を達成するにあたり、大きな進展であったといえる。当初はこのメカニズムとして(3)のASの立体配座が周囲にあるCSによってキラルな配座に変化し、医薬品の取込易さにも変化が生じているということを想定していたが、ASからは誘起円二色性スペクトルは示さず、立体配座に変化は無いものと考えられた。幸い、両親媒性分子と薬剤が1:1で相互作用したと仮定した場合の数理モデルが構築でき、メカニズムとしては(1)CSの方がASよりも薬剤と相互作用しやすいことによるものということを発見することができた。定性的には今回構築したモデルによって表現できるものの、定量的には分離係数の非線形を十分表現できているとは言えないのが現状である。より定量的に実験結果を説明するためには(2)のAS、CSそれぞれの臨界ミセル濃度を考慮して、これをモデルに加味する必要性がある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は主にモデルの改善に焦点を当てて研究を進めていく予定である。現状では構築した数理モデルが定性的には現象を説明するものの、定量的には実験結果を表現しきれていないという課題がある。この理由の一つにはASとCSそれぞれの臨界ミセル濃度がほとんど同じであると近似して計算をしていることが考えられる。実際にはわずかにアキラルな両親媒性分子の方が臨界ミセル濃度が大きいことが実験結果から明らかになっている。Hollandらが報告している混合ミセルにおける臨界ミセル濃度と両親媒性分子間の分子間相互作用の関係(J. Phys. Chem.1983,87,1984-1990)からミセル状態/溶液分散状態にある両親媒性分子の割合をAS、CSそれぞれについて算出し、この値を構築したモデルで加味すれば実験結果により近い形になると思われる。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたのは主に赴任先の変更に伴い、年度末に予算を執行できなかった事による。2019年度は主に試薬などの消耗品に予算を充てる予定である。
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Research Products
(10 results)