2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K14155
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田中 雄一郎 東京大学, 大学院数理科学研究科, 特任助教 (70780063)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | コンパクトリー群 / 可視的作用 / コイソトロピック作用 / 球多様体 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度はコンパクトリー群のハミルトニアンな作用について、その可視性の研究を行い、コイソトロピック性と強可視性とが同値であるという結果を得た。これら2つの性質については、複素多様体に対する可視的な作用の理論を導入した東京大学の小林俊行教授自身によって最初にその関係が考察されており(Publ. Res. Inst. Math. Sci. 41 (2005), no. 3, 497-549)、強可視性からコイソトロピック性が導かれることが証明されている。さらに、東海大学の笹木集夢准教授によって証明された、無重複線型空間へのコンパクト実形の作用は強可視的であるという結果から(Int. Math. Res. Not. IMRN 2009, no. 18, 3445-3466, 2011, no. 4, 885-929)、線型な作用については両性質が同値であることが分かっている。今年度得た結果は、これら先行結果の拡張になっている。本科学研究費を利用して2017年12月にTunisiaで行われた研究集会に参加し、上記成果について発表した際、とりわけInstitut Elie-Cartan de LorraineのWurzbacher教授から好評を得た。Wurzbacher教授はRuhr-Universitat BochumのHuckleberry教授との共著論文(Math. Ann. 286 (1990), no. 1-3, 261-280)において無重複性(簡約群の作用する空間が球多様体であること)とコイソトロピック性とが同値であることを証明しており、本研究課題と非常に深く関連している。また、本科学研究費を利用して参加した、2018年1月に鳥取で開かれた研究集会においても上記研究成果について発表を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
複素簡約群の実形の可視的作用に関する結果という意味においては研究テーマの通りではあるが、ハミルトニアンな作用やコイソトロピック性に注目することは当初の計画にはなかったことである。予定してはいなかったものの、コンパクトリー群のハミルトニアンな作用については先行研究の拡張という形で満足すべき結果が得られたため、研究はおおむね順調に進展していると考える。実際、複素簡約群の作用する空間に対し、その幾何を考える際にも、また解析を考える際にも、運動量写像は重要な役割を果たすため、本年度のハミルトニアンな作用に関する成果は今後研究を進めていく上で有益なものとなるはずである。また、Tunisiaで開かれた5th Tunisian-Japanese Conferenceにおける講演の後、研究集会の世話人であるUniversity of SfaxのBaklouti教授から「抽象的に与えられた無重複表現に対し、可視的作用が付随するか?」という重要な質問を頂いたが、本年度の成果はこれに関連するものである。即ち、小林俊行教授によって複素多様体への作用が可視的であれば正則関数(切断)の空間は無重複であるということが証明されているため(Progr. Math., 306, 2013, 113-140)、逆に表現が無重複であれば群作用は可視的であるか?という問題が自然に考えられるが、今回の研究でこの問に対し、非常に特別な場合にではあるが、肯定的に答えたことになる。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画の通り、複素簡約群の作用する複素球多様体に対し、inner typeの実形の作用の可視性について研究を行う。進捗状況で述べた通り、コイソトロピック性と可視性との関連についての研究は予定にはなかったが、その一方で、本科学研究費を利用して参加した龍谷大学におけるセミナー発表の準備をしている最中に、inner typeの実形の作用の可視性に対する研究上で技術的な障害となっていた問題の一つに対し、解決の糸口を見出したため、これを利用して研究を推進していきたい。具体的には、複素多様体に対するリー群の作用の強可視性の条件に現れる反正則微分同相写像を見つける際に、本研究で用いている手法においては固定化部分群の連結成分に対する処理を行う必要があるが、当初の予定では半単純対称対の分類と簡約型球部分群の分類とを用いて、各論によって必要な性質が満たされていることを証明しようと考えていた。しかし、この議論に対する抽象的な取扱いの方針が立ったため、この方針の下研究を進めていきたいと考えている。糸口が見えたことには、龍谷大学でのセミナーの準備にあたって松木敏彦教授の仕事、特に対称対に対する両側剰余類に関する研究(J. Algebra 175 (1995), no. 3, 865-925, 197 (1997), no. 1, 49-91)をあらためてもう一度勉強したことが大きい。また、球部分群に対するカルタン分解の研究も、研究計画の通りに進めていく。
|