2017 Fiscal Year Research-status Report
A study of the relationship between the sectional invariants of polarized toric varieties and integral convex polytopes
Project/Area Number |
17K14172
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Research Institution | Nara Medical University |
Principal Investigator |
川口 良 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (10573694)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 代数幾何学 / 偏極多様体 / 断面幾何種数 / トーリック多様体 / Weierstrass半群 |
Outline of Annual Research Achievements |
n次元偏極多様体(X,L)の分類に用いられる不変量の一つに第i断面幾何種数g_i(X,L)がある. これについては, L,...,(n-i)Lの随伴束を用いてg_i(X,L)を求める公式が福間慶明氏により発見されている. 筆者は今年度の研究においてこの公式を改良し, 直線束L,...,MLに関する情報でg_i(X,L)を記述することに成功した. ここで, Mはnが偶数ならn/2, 奇数なら(n+1)/2のことであり, iが小さい場合にはn-i>Mとなるため, 新しい公式の方が従来の公式よりも簡単になっていることが分かる. 本研究の最終的な目標はCastelnuovo多様体の分類であるが, これはi=1の場合, すなわち第1断面幾何種数の値に関する問題なので, 新しい公式を使えばこれまでよりずっと楽に計算できる. これにより, 来年度以降に取り組むCastelnuovo多様体の研究に向けて大きな足がかりを築くことができたと考えている. この結果は, 11月に高知大学で開催されたシンポジウム「射影多様体の幾何とその周辺2017」において発表した. また, 今年度は予備的な研究課題として挙げていたWeierstrass半群の研究においても成果があった. 巡回型のp次Weierstrass半群はMP条件と呼ばれる等式を満たすことが知られており, pが7以下のときは逆も正しい. しかし一般には逆の主張は誤りで, MP条件を満たすが巡回型でないWeierstrass半群の例がある. 筆者は米田二良氏との共同研究でトーリック曲面上の曲線で実現できるWeierstrass半群については, pの値に関わらずMP条件を満たすことと巡回型であることが同値になることを証明した. この結果は, 1月に宇部高専で開催された「第5回代数幾何研究集会」において発表した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
偏極トーリック多様体の範疇でCastelnuovo多様体を分類するというのが本研究の第一の目的だが, 今年度はそのために必要な断面幾何種数の公式を改良することができた. これは当初の研究計画通りの成果で, 順調な進行具合と言える. Castelnuovo多様体とは, 第1断面幾何種数が上限として知られている値に一致するような偏極多様体のことである. 従来の公式では, 断面幾何種数と上限との差を記述するのに必要な直線束の数が多過ぎて計算が難しかったが, 公式を改良できたことにより必要な直線束をn-1個からn/2または(n+1)/2個と, ほぼ半分に減らすことができる. これは, 来年度以降本格的にCastelnuovo多様体の分類を始める上で, たいへん有益な結果である. また, 今年度はWeierstrass半群の研究でも成果があった. pを素数とすると, p次Weierstrass半群に対し, MP条件を満たすことは巡回型であるための必要条件だが十分条件ではない. ただ, pが小さいときはこの2条件が同値になることが知られており, これらの間にどの程度の差異があるのかはまだよく分かっていない. 筆者は米田氏と共同でこの問題に取り組み, 筆者の研究領域であるトーリック曲面上の曲線に限定した場合, この2つの条件が同値になることを証明した. この場合, MP条件は格子点の対称的な配置として視覚的に捉えられるため, pが素数でなくとも似たような条件を定義することができる. すると, pが素数でない場合のp次Weierstrass半群の巡回性にまで同様の議論を拡張することができ, 今後へ向けての興味深い問題提起になる. どちらの結果も研究集会で発表することができ, 初年度として十分な成果が得られたと思う.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度得られた第i断面幾何種数の改良版の公式を用いて, 偏極トーリック多様体におけるCastelnuovo多様体を分類することを目標とする. Castelnuovo多様体とは第1断面幾何種数の値がある条件を満たす偏極多様体のことだが, 偏極トーリック多様体の場合, この条件が多面体の体積と格子点の数の関係に翻訳できる. 研究実績の概要でも書いた通り, 改良版の公式はi=1のときに最も威力を発揮するので, これを使うことで条件を満たす多面体をかなり絞り込めるはずである. 現時点での予想として, 先行研究やこれまでの計算結果から, Fano多様体やそれに近いものに限られるのではないかと考えている. 完全な分類ができるかどうかは分からないが, ある程度結果がまとまった段階で研究集会や学会などで発表し, 他の研究者の意見やアドバイスを受けながら研究を進めていきたい. また, 来年度中か再来年度の早い時期までに, ここまでの成果をまとめて一つの論文にする予定である. p次Weierstrass半群の巡回性とMP条件の問題については, 例や今後の展望などを整理した上で, できるだけ早く論文を執筆して投稿したい. 進捗状況の理由の部分に書いたように, MP条件を格子点の配置の条件と読み替えることで, pが合成数の場合にも同様の問題を拡張できるので, これにも取り組んでいく. その際には, 筆者が2010年の論文で発表した凸多角形を利用したWeierstrass半群の計算法を使うが, トーリック曲面上の曲線の解析を得意とするWouter Castryck氏がこの論文も含め筆者の過去の論文に興味を持って熱心に読んでくれているので, 彼にも意見を聞いて共同で研究することも考えている.
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