2018 Fiscal Year Research-status Report
組み合わせ的手法による低次元シンプレクティック多様体の研究
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17K14194
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
早野 健太 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 講師 (20722606)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | レフシェッツ束 / レフシェッツペンシル / trisection / 消滅サイクル |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度の研究で写像類群のチェイン関係式を用いてモノドロミー分解を変形することにより、Stipsicz予想の反例や全空間の小平次元が0となるレフシェッツペンシルの例を構成したが、本年度はこれらの例のモノドロミー分解をLantern関係式によりさらに変形して、興味深いレフシェッツ束およびレフシェッツペンシルの例を構成した。具体的には種数3のレフシェッツ束で、その全空間がいくつかの複素射影平面とその向きを逆にしたものの連結和と同相ではあるが微分同相ではないような例と、種数3のレフシェッツペンシルの対で互いに同型ではないものを与えた。 また以下で説明するように、シンプレクティック多様体上の単純なtrisectionの図式に関する結果も得られた。Trisection分割とは4次元多様体の3つのハンドル体による分割を指すが、この分割は4次元多様体から平面への安定写像で、特別な臨界値集合を持つものから得ることができる(ここではこの安定写像をtrisection写像と呼ぶ)。Baykur-佐伯はこの安定写像のさらに特別なものとして単純なtrisectionを定義し、有向特異レフシェッツ束をホモトピーにより単純なtrisectionに変形するアルゴリズムを与えた。一方trisection分割はHeegaard分解と同様に閉曲面上の単純閉曲線の組で表すことができるが(この単純閉曲線の組をtrisection分割の図式と呼ぶ)、単純なtrisectionから得られる分割の図式を得るには、その消滅サイクルを知る必要がある。本研究ではここで必要となる消滅サイクルを、もとの有向特異レフシェッツ束の消滅サイクルから得るためのアルゴリズムを与えた。レフシェッツ束も有向特異レフシェッツ束のうち特別なものであるので、この結果を用いれば、多くのシンプレクティック多様体上の単純なtrisectionの図式を得ることができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定にあった6次元シンプレクティック多様体の組み合わせ的表示の研究は昨年度に続き進展させることができていない。技術的な理由は「今後の研究の推進方策」の項で説明するが、その他の理由として4次元シンプレクティック多様体の手術の研究で現れた例が、当初想定していなかった形で応用できる可能性のあることが判明したことがあげられる。またシンプレクティック多様体の単純なtrisectionの図式の研究も、当初の研究計画には盛り込まれていなかったものの、4次元(シンプレクティック)多様体の組み合わせ的表示を総合的に調べるうえで重要である。 以上のように当初計画していた研究は順調であるとはいい難いものの、計画時点では想定していなかった、本研究課題に関連する別の結果が得られたので、おおむね順調に進展している、とした。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画にあった、射影空間上の代数的なペンシルの組み合わせ的構造の解明に取り組む。Moishezon-Teicherの理論では、射影平面上のVeronese埋め込みと高次元の射影空間から射影平面への射影の合成の、分岐点集合のブレイドモノドロミーを具体的に決定しているが、その過程でヒルツェブルフ曲面上の直線束に関する結果が利用されている。この理論を複素3次元の射影空間上のペンシルのモノドロミーの解析に応用するには、(特別な)代数曲面上の射影直線束の全空間の上で定義された直線束を調べる必要がある(問題1)。一方、上で言及したブレイドモノドロミーから射影平面上のレフシェッツペンシルのモノドロミーを得るには、射影平面間の分岐被覆をペンシルのファイバーに制限して得られる、代数曲線間の分岐被覆も調べる必要がある(問題2)。 当初の計画を遂行するには問題1と2の両方を解決しなければならないが、まずは問題2を解決し、複素平面上の正則なレフシェッツペンシルのモノドロミーを決定したい。なおこのようなレフシェッツペンシルの候補は組み合わせ的には構成されているものの、その正則性はわかっていないことに注意しておく。
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Causes of Carryover |
今後の研究の推進方策で説明した通り、当初は想定していなかった問題に直面し、研究が計画通りに進まず、結果として発表のために出張を要する機会も当初の予定より減少し、次年度使用額が生じた次第である。 次年度は見つかった問題を解決するために積極的に情報収集と成果発表を行う予定であり、そのための旅費として使用する予定である。また共同研究者であるRefik Inanc Baykur氏が来日する予定であるが、その際に研究集会を開催する予定である。この集会の講演者の招聘にも使用する。さらに、レフシェッツペンシルの研究を進めるにあたりPCが必要であると考えており、購入を予定している。
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