2018 Fiscal Year Research-status Report
高空間分解能ミリ波サブミリ波帯ガス輝線観測で探る活動銀河核トーラスの物理的起源
Project/Area Number |
17K14247
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Research Institution | National Astronomical Observatory of Japan |
Principal Investigator |
泉 拓磨 国立天文台, ハワイ観測所, 特任助教 (40792932)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 活動銀河中心核 / ALMA / トーラス / AGN / 流体計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
活動銀河中心核を取り囲んでいる幾何学的に厚いガスや塵の遮蔽体(トーラスと呼ばれる)が形成される物理的要因を解き明かすため、最新の電波干渉計であるALMA望遠鏡と、流体計算を組み合わせた研究を展開した。まず、最も近傍の活動銀河中心核であるCircinus銀河の中心部を、高密度分子ガスを探査するCO(3-2)輝線と、低密度原子ガスを探査する[CI](1-0)輝線を用いて高解像度観測した。この観測はALMA Cycle 4期になされたものであり、[CI](1-0)輝線の空間分解能 = 15 pcは、現時点で活動銀河に対するデータとして最高のものとなっている。得られたデータから各相(分子・原子)のガスの空間分布や、力学構造を調査した。結果、銀河核近傍では、高密度分子ガスは円盤構造を示す一方、低密度原子ガスにはアウトフロー(噴出流)現象が見られることが分かった。しかし、アウトフローの速度は著しく早いというわけではなく、銀河中心ブラックホールの重力に引かれて結局は中心核近傍に再び落下してしまうことも分かった。つまり、銀河核近傍では、「ブラックホールに流入するガス」「アウトフローとして流出するガス」「結局は銀河核近傍に舞い戻って来るガス」の力学的な三成分が存在する。Circinus銀河に対して専用に行なった我々の流体計算 + 化学組成計算 + 輻射輸送計算の結果との比較から、上記の三成分があたかも「噴水」のように作用して、「トーラス」状の幾何学的に厚い構造を成していることが判明した。したがって、活動銀河中心核トーラスモデルの30年来の謎であった、「トーラスの物理的起源」が解明されたと考えている。
以上の成果は、米国の天体物理学誌にて発表した(T. Izumi et al. 2018, The Astrophysical Journal, vol 867, 48)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
非常に高い信号対雑音比で取得されたCircinus銀河の高解像度データのおかげで、精度良くガスの空間分布や力学構造のモデル化ができた。これにより、解析にかかる時間が大幅に短縮され、予定より早い論文化にたどり着くことができた。理論モデルとの結果の整合性も想像以上に美しいもので、説得力のある成果が得られたと考えている。トーラスの物理的起源を解き明かしたというインパクトの大きさを鑑み、結果を国立天文台を通じてプレスリリースしたことも、当初の想定以上の成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
活動銀河中心核トーラスの興味深い性質のひとつに、その幾何構造は、中心の銀河核の光度ないしはブラックホール質量で規格化したエディントン比と呼ばれる値に応じて変化すると、理論的にも観測的にも示唆されている。Circinus銀河でのトーラス研究の成功を受け、今後は中心核光度が大きく異なる天体へとパラメータスペースを拡張し、異なる条件下でも我々のモデルが観測結果を整合的に再現できるか調査する。
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