2018 Fiscal Year Research-status Report
電弱スケール微調整問題の解となる超対称標準模型の探求
Project/Area Number |
17K14270
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
永田 夏海 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (60794328)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 超対称性理論 / 大統一理論 / 暗黒物質 / インフレーション / ニュートリノ / アクシオン |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度の研究によって,高いスケールで超対称性が破れている場合であっても電弱スケールの微調整問題が解決される可能性が示された。そこで,本年度の研究ではまず,このような模型に現れる暗黒物質や比較的軽い超対称粒子を探る方法を精査することにした。特に,暗黒物質直接探索に関する理論の精密化,粒子の長寿命性に着目してLHC実験の観測感度を向上させる方法,の2点に重点をおいて研究を行った。 暗黒物質直接探索実験に対して精度の良い理論予言をするためには,暗黒物質と核子との相互作用を高精度で計算する必要がある。そこで,この計算に必要な核子行列要素の最近の計算を包括的に検証したうえで現時点での理論誤差を明らかにし,摂動の高次の寄与を必要な精度まで系統的に取り入れ,理論予言の精密化を図る研究を行った。 LHC実験における長寿命粒子探索に関しては,『衝突点から離れた崩壊事象』を探ることにより新粒子探索の感度を向上させる方法を研究した。まず,LHC実験において既に用いられている手法を応用することにより,先行研究において探られていたよりも衝突点に近い点で崩壊する事象を探りうることを示し,その情報を用いることで新粒子探索の感度を飛躍的に向上させることが可能であることを明らかにした。また,先行研究において用いられていたトリガーを別種のものに変更することにより,カラー粒子以外の軽い新粒子の崩壊事象を効率良く探ることができることを示した。 これらのボトム・アップ的研究に加え,種々の高エネルギー模型を考えてその現象論的予言と最新の実験結果とを照らし合わせて,模型に対し制限を与えるトップ・ダウン的アプローチによる研究も積極的に行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
高いスケールの超対称性模型を探る方法を研究するボトムアップ型のアプローチに関しては,暗黒物質直接探索に関する理論の精密化について1件,LHCでの長寿命粒子探索に関連して2件,それぞれ研究を完成させ,これらは既に雑誌に掲載されている。また,トップ・ダウン型のアプローチについては3件(NMSSM模型,flipped SU(5)大統一理論,Minimal SU(5) Super-GUT in pure gravity mediation),さらに非超対称模型に関する研究(中性子星の冷却曲線の観測結果からアクシオンに対し制限を与える研究,シングレット・ディラック暗黒物質の現象論的研究,および最小U(1)_{L_alpha - L_beta} ゲージ理論をニュートリノ実験の結果から制限する研究)を3件それぞれ完成させた(うち一件は査読中)。これらの結果を考慮すると,本年度は非常に精力的に研究結果を出せたといえる。一方で,特に非超対称性理論に関する研究は『電弱スケール微調整問題の解としての超対称標準模型』との関連性がやや希薄であるといえる。これらのことを鑑みて,総合的に進歩状況を『おおむね順調に進展している』と評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度のボトムアップ型研究としては,中性子星の表面温度測定を通じてWIMP暗黒物質模型を検証する研究を行いたいと考えている。宇宙の暗黒物質は,中性子星内の物質との散乱を通じて中性子星の中心部に蓄積し,最終的に対消滅をすることで中性子星に熱を与える。この結果,中性子星の表面温度が数千Kほどに温められることが知られている。従来の中性子星冷却理論によると,中性子星の年齢が500万歳程度になるとその表面温度は1000K未満になる。従ってこのくらい古い中性子星の表面温度を測定することにより暗黒物質対消滅の兆候が観測できるのではないかと期待されていた。しかしながら,最近になって中性子星冷却理論よりも高い温度(10万K程度)の古い中性子星が見つかってきた。さらに,このような高い温度の中性子星は,これまでの冷却理論に取り入れられていなかった非ベータ平衡の効果をきちんと取り入れることで説明することが可能であると明らかになった。このことを考慮して,本年度は,非ベータ平衡の効果を取り入れた上でもなお暗黒物質消滅による中性子星加熱の効果を見ることができるのか,もしも可能ならばどのような条件下において可能になるのか,これらを明らかにすることを目標にする。 トップ・ダウン型アプローチに関しては,flipped SU(5)大統一理論に着目する。この模型は自然に二重項・三重項問題を解決することから,『電弱スケール微調整問題の解としての超対称標準模型』を構築する際に有用な基盤を提供することが期待される。この模型に内在するシングレット場がインフレーションを起こしていることを仮定すると,ニュートリノ物理,暗黒物質残存量,バリオン数非対称性の間に強い相関が生まれることが期待されている。このことを数値解析により実際に示すことを本年度の目標にする。
|
Causes of Carryover |
予算の範囲内で余裕を持って使用したため少額残る結果となった。
|