2019 Fiscal Year Research-status Report
電弱スケール微調整問題の解となる超対称標準模型の探求
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17K14270
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
永田 夏海 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (60794328)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 超対称性理論 / 大統一理論 / 暗黒物質 / インフレーション / ニュートリノ / 中性子星 |
Outline of Annual Research Achievements |
電弱スケール微調整問題の解として長年考えられてきた超対称模型において,数百GeV程度の軽いヒッグシーノ(ヒッグス粒子の超対称パートナー粒子)がしばしば予言される。これは,加速器実験における重要なターゲットとなるが,電弱相互作用しか持たないこと,ヒッグシーノの荷電成分と中性成分の質量が縮退していること,などの理由から,LHCにおいて探索することが困難になっている。特に,荷電成分と中性成分の質量差が1 GeV程度の場合には,従来の探索手法で制限をつけることができていなかった。そこで,本年度行った研究において,衝突点からわずかにずれたソフトな孤立荷電トラックを探索することで以上のような質量スペクトルを持つヒッグシーノでもLHCにおいて探索できないかを検討した。その結果,将来のLHC実験において数100 GeV程度のヒッグシーノを探索可能であることを明らかにした。
電弱スケール微調整問題の解として考えられている具体的な超対称模型の一つに,munuSSMと呼ばれる模型がある。この模型において,タウ・スニュートリノ(タウニュートリノの超対称パートナー粒子)が超対称粒子のうち最も軽くなる場合,この粒子が長寿命になり,典型的な崩壊長が1 mm程度になることが知られている。このような長寿命粒子は,衝突点からわずかにずれた崩壊点を見つけることにより探索することが可能である。今年度行った研究では,munuSSM模型において,観測されたニュートリノ振動の結果を再現するようなパラメーター領域に着目し,タウ・スニュートリノの探索可能性を評価した。その結果,多くのパラメーター領域を将来実験において検証することが可能であると明らかになった。
これらの研究に加えて,超対称大統一理論に関する研究,および中性子星温度観測を用いた暗黒物質探索に関する研究等も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は,『電弱スケール微調整問題の解となる超対称標準模型』を将来実験において探索する手法について新たな提案を行う研究を2件完成させた。それらは既に学術誌に出版されている。これらの研究成果は,本研究の中心課題の検証に直結するものであり,本課題の枠組みにおいて重要な進展であると言える。加えて,前年度の『研究実施状況報告書』の『今後の研究の推進方策』において計画した,『中性子星の表面温度測定を通じてWIMP暗黒物質模型を検証する研究』および『flipped SU(5)大統一理論に関する研究』も共に行うことができた。前者に関しては,非ベータ平衡の効果に関する理論的研究に特化したものとあわせ計2本の論文を完成させた。後者に関しても,計2本の論文を完成させている。このように,前年度計画した研究自体も順調に進展し予想以上の数の論文を書くことができたことに加え,本研究課題に直接関連する研究を新たに2つ行うことができたことから,今年度の進展状況を『当初の計画以上に進展している』と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究においても,ボトム・アップおよびトップ・ダウン型アプローチの双方を用いることにする。ボトム・アップ型研究としては,本年度も『中性子星の表面温度測定を通じてWIMP暗黒物質模型を検証する研究』を中心におく。これまでの研究で,非ベータ平衡過程の効果をきちんと取り入れた上で,どのような場合にWIMP暗黒物質を中性子星表面温度測定を通じて探索することができるかを明らかにした。ところが,非ベータ平衡過程以外にも,中性子超流動渦糸や,中性子星における磁場崩壊など,中性子星表面温度発展に影響を与える可能性が指摘されている効果がいくつかある。今後の研究において,これらの効果を取り入れた上でWIMP暗黒物質の探索可能性を評価する。その後,これらの研究の応用として,超対称性模型におけるニュートラリーノ暗黒物質に着目し,それらを中性子星表面温度測定を通じて探索する可能性に関してその見込を明らかにする。
トップ・ダウン型アプローチとしては,アノマラスなU(1)ゲージ対称性を持つ超対称標準模型に着目し研究を行うことにする。この対称性は超弦理論において自然に登場し,湯川結合行列のフレーバー階層性の説明などに重要な役割を担っているのではないかと期待されている。この場合,湯川結合行列のフレーバー構造とスフェルミオン(フェルミオンの超対称パートナー粒子)の質量行列の構造との間に相関があることが期待される。特に,スフェルミオン質量を通じてフレーバーを破る過程が生じえて,これを将来のフレーバー実験において探索しうる。今後の研究では,このような模型を将来実験でどの程度検証することが可能かを明らかにする。加えて,アノマラスなU(1)ゲージ対称性を持つ超対称大統一理論に関しても研究を行い,特に二重項・三重項問題の解決にこの対称性を使用することを試みる。
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Causes of Carryover |
年度末に出張等で使用する予定であったが,新型コロナウイルスの影響で急遽出張を行うことができなくなったため,少額繰り越すことにしたため。
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