2019 Fiscal Year Research-status Report
計算統計に立脚した宇宙論解析のための理論的基盤の開発
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17K14273
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| Research Institution | Kyoto University |
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Principal Investigator |
西道 啓博 京都大学, 基礎物理学研究所, 特定准教授 (60795417)
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| Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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| Keywords | 宇宙大規模構造 / 摂動理論 / 多点統計量 / 宇宙論パラメタ |
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| Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に引き続き、並行して進められているコンピュータシミュレーションと機械学習による数値的研究により得られた大規模データベースから、背景に潜む物理現象の深い理解を目指した理論研究を推進した。
まず、宇宙論的流体がシェルクロッシングを経験することで単流領域から複流領域への遷移と、摂動展開に基づく揺らぎの進化計算の破綻との関係を検証した。まず、厳密解が知られている１次元宇宙模型から揺らぎのモード輸送を特徴付ける伝搬関数を導出した。この結果、逐次的に導出された摂動解のみならず、厳密解においても数値計算から測定した伝搬関数との大きな乖離が確認され、単流近似の元で構築された基礎方程式系そのものの限界を明らかにした。また、同様な効果をラグランジュ的摂動論と経験則的な補正に基づく３次元模型の場合について調査し、シェルクロッシング後の宇宙論的流体の挙動を制御することがまさしく従来の摂動解の問題を解決しうることを直接的に示した。
このように第一原理的に計算することの難しいシェルクロッシング後のダイナミクスや、そのような領域で形成されると銀河の統計的性質を記述しうる一つの方法として、有効場の理論的方法がある。このようなアプローチの妥当性と限界を検証するため、宇宙論パラメタを伏せた模擬データを用いたブラインド解析キャンペーンを立ち上げた。このキャンペーンでは、米国から独立した２つの解析チームが参加し、それぞれ詳細の異なる理論模型や統計解析パイプラインの実装を行い、いずれも次世代観測に見合った高精度の解析が可能であることを示した。
この他には、多点の統計量の間に成り立つ整合性関係式を利用することで、モデルの仮定なしに銀河バイアスの情報を引き出す方法論の構築を行い、数値シミュレーションデータを用いてその有効性を詳細に検討した。
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| Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、新たに１次元の宇宙模型や近似的ダイナミクスを用いた解析を行うことで、当研究計画の最重要課題である摂動論の破綻とその背後にある物理過程との関係を明らかにすることに成功した。また、これにより摂動展開を正則化するために必要な重要な示唆を得た。さらに、ブラインド解析を行うことで、有効場の理論による宇宙論解析に向けた具体的な筋道を立てることができた。この点については、新たに海外との共同研究を開始することで、当初の予定よりも大幅に進展させることができた。整合性関係式については具体的なセットアップで宇宙論的情報を取り出せる可能性を実証し、予定通り進展している。一方で、赤方偏移歪み効果の理論的記述に関しては予定よりも進展が遅れている。これらを総合的に考えると、研究全体としては概ね順調に進展していると考えられる。
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| Strategy for Future Research Activity |
最終年度は赤方偏移歪みの理論構築に注力する。現状の有効場の理論の不満な点として、赤方偏移効果を記述するアドホックなパラメタが複数存在し、それらは銀河の持つ速度場の性質を物理的に理解すれば、より少数の意味のあるパラメタに置き換えられると期待される。現状で、この部分が銀河クラスタリングの統計解析から情報を引き出す上で最大の障害となっているため、物理に基づく模型に置き換えることで大きな改善を図りたい。
また、整合性関係式を通じた宇宙論解析においてもやはり赤方偏移歪み効果を適切に取り入れたものに刷新することが課題となる。既に得た初期的な結果では、有効場の理論で記述される小スケール領域の速度構造の差異が比較的大きなスケールの関係式に大きな影響を与えることが分かってきた。そこで、この部分については場の持つ対称性などから存在が予想される少数の項を導入し、それらにかかる係数を周辺化することで、関係式の適用範囲を広げたい。
これらの進展を踏まえ、赤方偏移歪み効果の不定性に依らない統計量は何か、そしてそこから引き出せる宇宙論的情報は何か、数値計算に基づいて新たに提案し、次世代観測に応用可能な方法論を整備したい。
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