2017 Fiscal Year Research-status Report
トリウム229極低励起エネルギー準位観測のための高時間分解能X線検出器の開発
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17K14291
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
平木 貴宏 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 特別研究員(PD) (40791223)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 原子核実験 / トリウム229 / 低エネルギー励起準位 / 核共鳴散乱 / 放射光 / APD検出器 |
Outline of Annual Research Achievements |
トリウム同位体の1つ229-Thは、第一励起準位が6.3-18.3eV程度と原子核の中で最低で、エネルギースケールが真空紫外領域に対応するため、この準位は真空紫外レーザーにより励起することが可能である。このアイソマー準位を用いた原子核時計等の応用が期待されているが、レーザー励起するためには励起エネルギーの正確な値が必要である。しかしながら、未だに正確な励起エネルギーは分かっておらず上に述べた精度の悪い値しかないため、レーザー励起は実現されていない。本研究は核共鳴散乱を用いて第一励起状態からの脱励起光を世界に先駆けて観測し、脱励起光を分光してエネルギー準位を正確に決定することを目指している。 そのためにはまず229-Thの第二励起状態(29.19 keV)への核共鳴散乱信号を観測することが必要になるが、その寿命は150 ps程度と予想されており、これはこれまで測定された核共鳴散乱の寿命と比べても短い。本年度はこの観測に必要な高時間分解能、高レート耐性、エネルギー分解能を持った9chAPDアレイおよび後段回路である高速プリアンプ、高時間分解能Constant fraction discriminator, 検出器にエネルギー分解能を持たせることができるAmplitude-to-time converterの製作を行った。 また、この検出器及びSPring-8の高強度放射光ビームを用いて第二励起状態からの核共鳴散乱信号探索を行った。今年度の実験では核共鳴散乱事象による信号事象の有意な超過は観測されなかったが、次年度も引き続き探索を進める。 また、KEK-PFでビームテストを行い、検出器の特性や背景事象についての理解を深めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
検出器系は本年度で要求を満たせるものをおおよそ完成させた。検出器アクセプタンスを稼ぐためにAPD検出器アレイを製作した。本研究で用いるAPDはカンの中にセンサーがある。APD検出器アレイははじめカンを手作業で外して素子を手で並べたものを用いていたが高集積化が難しかったため、その後1つの基板にAPDセンサーを高集積化して9個並べたものを浜松ホトニクス社と開発し、それにより検出器アクセプタンスを向上させることに成功した。検出器系の時間分解能は120ps(FWHM)を達成した。 SPring-8での実験では標的から出るX線を信号として観測しているが、KEK-PFでのビームテストでは電子信号を観測し検出効率の評価などを行った。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は核共鳴散乱信号の発見には至らなかったが、検出器系のsignal to noise 比は約1;1程度を達成した。核共鳴散乱信号探索の感度を向上させるためにはトリウムおよび娘核の放射線による背景事象を削減することが必要で、そのためには放射光を集光することおよび小型で高密度のトリウム標的を作成することが重要であることがわかっている。次年度は上に述べた改良を行い探索を続ける。核共鳴散乱信号の観測に成功すれば、アイソマー準位からの脱励起光の分光によりアイソマー準位の精密決定を行う。
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Causes of Carryover |
本年度はSPring-8に申請したビームタイムの期間と比べて採択された期間が短かったこと、および核共鳴散乱信号の発見に至らずアイソマー準位からの脱励起光分光実験のセットアップ作成が進まなかったことが主な理由である。次年度は本年度より長いビームタイムが既に確保されておりその準備に科研費を用いる予定である。またアイソマー準位からの脱励起光分光実験の準備も進めていく。
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