2018 Fiscal Year Research-status Report
ミクロな領域で有効である新規な重力理論によるプランクスケール時空構造の究明
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17K14294
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
佐々木 伸 北里大学, 理学部, 講師 (20622509)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 超弦理論 / T双対性 / Double Field Theory |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度、T双対性を明白に定式化した重力理論であるdouble field theory (DFT)に基づく解析により、我々は従来の超重力理論に存在する古典解には、弦の巻きつきに由来する補正が存在することを示した。定性的な議論により、この補正は弦の世界面インスタントンに由来する量子補正であると理解された。
本年度は、時空への弦の量子補正をより直接的に調べるため、自身および共同研究者はT双対性に由来する自由度を含む弦の2次元世界面理論(gauged linear sigma model, GLSM)を構成した。我々は、このゲージ理論が、低エネルギー極限で従来から知られていたT双対鎖古典解(NS5-, KK5-, 5^2_2-branes)を標的空間とする非線形シグマ模型を再現することを示し、UV領域でのゲージインスタントン解が、低エネルギーで上記の世界面インスタントン補正を導くことを示した。この結果により、インスタントンに由来する時空間への量子補正が、より定量的に理解できたことになる。
一方で、弦の巻きつき効果が内在する時空間の数学的定式化は、従来のリーマン幾何学に立脚するアインシュタイン重力理論によるそれとは大きく異なっている。我々は、DFTの背後にある時空幾何学の数学的定式化としてpara-Hermitian構造を持った多様体とその上に定義される亜代数(algebroid)に注目し、その幾何学的性質を調べた。para-Hermitian多様体には、para複素構造に由来する2つの接束が自然に定義され、それぞれの接束には独立した亜代数が定義されることが知られている。我々はDFTの物理条件(strong constraint)が、この二つの亜代数が双亜代数となるための条件であることを証明し、物理的時空間がpara-Hermitian多様体の葉層構造により表現されることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は当初の予定通り、DFTにおける弦の巻きつき補正を含む古典解を導出し、その物理的特性について主に定性的な見地から議論を行った。2018年度は前年度に発表した研究をさらに推し進め、結果を論文として発表した。研究内容は昨年度の結果を定量的側面から補完したものであったが、二つの異なるアプローチから同一の物理的結果が帰結されたことは、研究の妥当性を評価するうえで重要な結果であった。
研究計画2年目の本年は、当初研究計画になかった新しい発見もあった。弦の巻きつき補正により、時空間の性質はアインシュタイン理論のそれとは変わってくる一方、いくつかの不明確な点が明らかになった。そのうちの一つは弦の巻きつき効果も含めた時空幾何学の数学的整備の理解が不十分であることである。我々はDFTの背後に存在する倍化時空間の数学的定式化としてpara-Hermitian多様体上に定義される亜代数構造を明らかにし、DFTの物理的整合性条件が、数学的に双亜代数構造およびCourant亜代数構造を誘導することを示した。また、物理的時空間がpara-Hermitian多様体の葉層構造として現れることもわかった。結果は論文としてまとめ、プレプリントサーバー(arXiv)へ発表した。論文雑誌へ投稿し査読中である。
本年度では時空への弦の巻きつき効果 への理解が 1. 弦の世界面ゲージ理論(物理的アプローチ)、および、2. para-Hermitian多様体上の葉層構造(数学的アプローチ)、の二つの側面から進んだ。特に、2のアプローチは当初の予想にはなかった新しい進展であり、DFTの背後に豊かな数学的構造が内在することがわかった。この発見により、今後は様々な観点から弦理論に存在する時空幾何の性質を調べることが可能となった。以上の結果から、研究は概ね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究課題に対しては共同研究者との議論を通じて、より多角的にアプローチできるようになった。本研究の目標は量子重力理論としての弦理論における時空間の性質を明らかにすることであるが、本年度までの結果から、大きく分けて、1. 物理的アプローチ、2. 数学的アプローチ、が可能になった。
1に関して、超弦理論の低エネルギー極限を考えれば、弦の巻きつきモードは超重力理論への無限個の有質量場補正と考えることができる。ある種の背景幾何では、これら有質量場が全て低エネルギー理論に効くことが予想できるため、最終年度ではこのモードによる超重力理論への補正を詳細に調べることで弦の巻きつき補正の物理的効果を理解する。特にブレーン、ブラックホール時空、初期宇宙における弦のwinding効果について調査する予定である。
2に関して、時空の局所的構造に立脚する亜代数には、大域的な亜群構造が付随する場合があることが知られている。非自明な亜群構造は、従来のアインシュタイン重力理論では現れず、弦が見る時空幾何に特有の構造であることが予想される。DFTの物理的条件が倍化時空の大域的構造においてどのような役割を果たしているか、para-Hermitian多様体における亜代数および亜群の構造を通じて調べる予定である。
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Causes of Carryover |
本研究課題における予算は、主に他の研究者との議論や研究会出席のための旅費に用いられる。本年度の研究活動は代表者の個人活動が主であり、外部研究者とのやりとりはskype等の遠隔会議システムで事足りた。また、本研究課題に関する所属先の大学院生との共同研究が進んだため、外部に赴く機会があまりなかった。これらの理由のため、本年度は予算執行の機会が少なかった。
本年度は本研究課題に関する研究成果がある程度得られたため、来年度は積極的に国内、国外研究会に出席し、外部研究者との議論を加速させる予定である。本年度使用できなかった予算は、新たに必要となる書籍、PC購入や、国内、国外旅費に使用する予定である。現在、7,8月に行われる国際会議にて研究発表を行うことが決定している。
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Research Products
(13 results)