2017 Fiscal Year Research-status Report
間欠帰還型能動核スピンメーザーの開発による超高精度スピン歳差周波数測定とその応用
Project/Area Number |
17K14310
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
佐藤 智哉 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器研究センター, 基礎科学特別研究員 (60780856)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 実験核物理 / 精密周波数計測 / スピンメーザー / 核スピン / 磁力計 |
Outline of Annual Research Achievements |
核スピンの周波数精密測定は、基礎物理学の探求において原子の永久電気双極子能率探索をはじめとする様々な応用がなされている。本研究は、この核スピン歳差周波数の測定精度向上のために、静磁場下でのスピン歳差を横緩和に制約されることなく長期に渡って維持する独自の機構「能動帰還型スピンメーザー」の新規な運転方式である「間欠帰還方式」 を開発することを目的とする。 能動帰還型メーザーでは、スピンの光検出と外部回路による帰還磁場生成・印加によって歳差を維持するが、スピン検出媒介原子 (Rb) の運動にメーザー帰還磁場が影響を及ぼし、それがメーザー動作を歪めひいては周波数不安定性の原因となることが明らかとなっていた。間欠帰還方式では歳差観測と帰還磁場印加を時間的に分離しそのサイクルを繰り返すため、歳差信号は純粋にXeスピンの運動のみを反映する。この特性によって精緻なスピンの操作が可能であり、スピンメーザーの究極の周波数精度を実現することができると考えられる。 平成29年度は、本研究にとって最も重要である間欠帰還磁場生成・印加機構の開発を行った。Xe歳差信号をPCへと取り込み、LabView上の演算によって歳差信号と同じ周波数を持ちかつ位相が90度ずれた帰還磁場信号を生成した。帰還信号の周波数及び位相のパラメータを任意波形発生器へと転送し、Xeスピンへの帰還磁場印加をトリガでオンオフする機構を開発した。これを既存の能動帰還型核スピンメーザーのセットアップへと組み込んで実験を行い、間欠帰還方式によるXe-129とXe-131の二核種同時メーザー発振に初めて成功した。 また、スピン歳差観測と帰還磁場印加のサイクルから前者の信号だけを抜き出す手法について検討・開発を行い、それを用いた周波数解析の結果、メーザー動作がその原理から導かれた基礎方程式と極めて良い一致を示すことを発見した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、Xeスピン歳差観測過程におけるメーザー帰還磁場の影響を除去するために「間欠帰還方式」による能動帰還型核スピンメーザーを開発し、その性能評価を行うことを目的としている。間欠帰還方式はこれまで前例がない新規な試みであるため、初年度は同方式でのメーザー発振のための帰還磁場印加機構の開発とそれによるメーザー動作の実証実験を目標としていた。 現在までに上記帰還機構の開発に成功し、実際にメーザー発振実験を行って間欠帰還方式によるメーザー動作を確認した。間欠帰還によるメーザー動作の最適化等、開発及び調整の余地は存在するものの、研究は詳細なメーザーの挙動、測定における系統誤差の調査へと移行できる段階まで到達しており、計画は順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に開発した間欠帰還方式によるメーザーを用いて、メーザー周波数の運転パラメーター(磁場、運転温度、レーザー周波数・強度、帰還磁場強度等)への依存性測定を行い、それぞれのパラメーターの変動が引き起こす系統誤差を詳細に調査する。特に帰還磁場にまつわる系統誤差が除去されていることを確認する。10万秒程度のメーザーの長期運転を行って周波数精度を測定し、間欠帰還方式による系統誤差の抑制、周波数精度の改善について実証する。 また、これと並行して能動帰還型メーザーの動作特性について理論的検討・実験的検証を重ね、さらなる周波数精度向上へ向けた開発を行う予定である。
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Causes of Carryover |
能動帰還方式でのメーザー動作のために帰還磁場生成機構の新規開発を行ったが、その中核であるアナログデジタル(AD)コンバーターについて既存の製品を使用したため、使用を予定していた費用を次年度使用額として繰り越した。測定における周波数精度に関連する信号雑音比の改善のためにはより高い分解能を持つADコンバーターが必要であることから、平成30年度にその購入を予定している。
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[Presentation] 間欠帰還型能動核スピンメーザーの動作特性と環境応答2017
Author(s)
佐藤智哉, 市川雄一, 井上壮志, 内山愛子, Gladkov A., 高峰愛子, 小島修一郎, 舟山智歌子, 田中俊也, 坂本雄, 大友祐一, 平尾千佳, 近森正敏, 彦田絵里, 古川武, 吉見彰洋, Bidinosti C.P., 猪野隆, 上野秀樹, 松尾由賀利, 福山武志, 吉永尚孝, 酒見泰寛, 旭耕一郎
Organizer
日本物理学会2017年秋季大会
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[Presentation] Development of co-existing 129Xe and 131Xe masers with time-separated feedback scheme for the Xe atomic EDM search2017
Author(s)
Sato T., Ichikawa Y., Inoue T., Uchiyama A., Gladkov A., Takamine A. Kojima S., Funayama C., Tanaka S., , Sakamoto Y., Ohtomo Y., Hirao C., Chikamori M., Hikota E., Furukawa T., Yoshimi A., Bidinosti C.P., Ino T., Ueno H., Matsuo Y., Fukuyama T., Yoshinaga N., Sakemi Y., and Asahi K.
Organizer
The third International Conference on Advances in Radioactive Isotope Science (ARIS 2017)
Int'l Joint Research