2017 Fiscal Year Research-status Report
宇宙線反粒子探索実験へ向けた高性能な大型シリコン検出器の研究
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17K14313
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Research Institution | Japan Aerospace EXploration Agency |
Principal Investigator |
小財 正義 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 招聘職員 (60781739)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | シリコン検出器 / リチウムドリフト型シリコン / リーク電流 / 反粒子 / 宇宙線 / 暗黒物質 |
Outline of Annual Research Achievements |
宇宙線反粒子探索実験GAPSへ向けて高性能な大型シリコン検出器の研究を進めた。シリコン検出器は高エネルギー分解能という長所があるものの、広面積かつ厚肉な有感領域を得ることが難しいため、GAPSで計画されているような、粒子捕捉と高分解能エネルギー測定を兼ねた使用は従来困難であった。本研究により、GAPSが目的とする反粒子観測による暗黒物質探索に貢献できるだけでなく、シリコン検出器の新たな利用法の創出も期待できる。 GAPS用シリコン検出器にはリチウムドリフト型シリコン(Si(Li))素子を採用する。Si(Li)素子はp型シリコンにリチウムを浸透させアクセプタを補償することで得られ、数mmの厚い有感層が得られるという特長がある。本研究では厚さ2.5 mm、直径10 cm、セグメント数4又は8のSi(Li)素子をベースラインとして開発を進める。 大面積Si(Li)素子では、リーク電流がノイズの主な要因となり、その低減が喫緊の課題となる。GAPSの要求仕様を満たすには1素子あたり数十ナノアンペアに抑える必要がある。 当該年度はSi(Li)素子のリーク電流対策の研究を重点的に進めた。まず大型Si(Li)素子のn電極にガードリングを設けることで、リーク電流発生源と考えられる周縁領域をセンサ領域から切り分け、リーク電流を約3桁低減させることに成功した。さらにp型シリコンウェハへのリチウムドリフト工程を最適化し、p面に薄い未ドリフト層を残すことでリーク電流をGAPSの要求仕様数にまで抑えることに成功した。 これらは厚さ数mm、直径10 cm程度の大型Si(Li)素子では初めて実証されたノイズ削減法であり、GAPSの実現に貢献できるだけでなく、シリコン検出器の新たな利用法の創出という面でも重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画では、当該年度は「1.大型Si(Li)素子製造工程の最適化」と「2.プレアンプの設計・試作とSi(Li)検出器の評価試験」を行う予定であった。 1.については「研究実績の概要」で述べた当該年度の研究成果から、達成できたと考えられる。さらに、次年度に計画していた「3.Si(Li)検出器の量産化法の確立」も既に始めており、最適化した製造工程に従って数十個のSi(Li)素子の製造・評価を進めている。 2.については、エネルギー分解能評価システムの構築を進めているものの、ノイズ対策などに時間がかかっており、測定結果が出るのは次年度始めとなる予定である。 以上から、総合的に判断して区分(3)を選択した。
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Strategy for Future Research Activity |
エネルギー分解能評価システムを完成させ、試作Si(Li)素子の性能を詳細に評価して製造の良品率も見積もる。それにより、Si(Li)検出器の量産化モデルを確定する。 さらに、Si(Li)検出器の性能評価結果をGAPSの測定器シミュレーションに反映し、GAPSで予想される反粒子検出感度を正確に見積る。
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