2017 Fiscal Year Research-status Report
極端紫外線・軟X線撮像分光観測を用いた太陽フレアにおける加速電子診断法の確立
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17K14314
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Research Institution | Japan Aerospace EXploration Agency |
Principal Investigator |
川手 朋子 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 招聘研究員 (10647100)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | プラズマ物理 / 核融合プラズマ / 天体プラズマ / 原子物理 / 太陽物理 / 高エネルギー / 粒子加速 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度の研究実績は (1)原子データの導出方法の理解と取得、(2)数値計算方法の確立、(3)実験室プラズマにおける軟X線データの取得と非熱的電子診断である。 (1)英国ケンブリッジ大学に訪問し、衝突励起断面積の計算手法を学んだ。主に用いたコードはAUTOSTRUCTUREであり、太陽フレアなど1千万度以上のプラズマに対して良い近似となる。さらに他の手法により計算された励起断面積計算結果との比較を行った。この訪問により、励起断面積計算および任意の電子エネルギー分布関数における励起確率の計算が可能となった。また英国滞在中、アビンドンで開催されたADAS WSに参加した。原子データベースADASを用いた研究や原子データそのものについて、宇宙物理分野や核融合プラズマ分野の研究者と議論を交わした。 (2)英国訪問時の議論をもとに、励起断面積から遷移確率を計算し、放射強度を導出するコードの開発を行った。この研究により任意の電子エネルギー分布および密度条件における定常時の放射スペクトルの計算が可能となった。 (3)核融合科学研究所の共同研究に採択された。内容は大型ヘリカル装置内のプラズマから放射する軟X線スペクトルの計測であった。放射スペクトルと同時に計測している電子温度・電子密度を用いて、ヘリカル装置動径方向の各地点の軟X線の放射強度をモデル計算し、計測された軟X線スペクトルと比較した。その結果、軟X線放射領域に主たる温度のほか、より高温な電子の存在が確認された。さらに非熱的な電子エネルギー分布下における輝線スペクトルをモデル計算し、観測結果と一致するような高温成分の相対量を見積もった。この研究から、軟X線輝線スペクトルを用いて非熱的電子の存在を定量的に示すことができた。この結果は2018年3月に開催された日本物理学会春季大会で報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画の中で当初予定していた項目は(1)原子データの導出方法の理解と取得、(2)数値計算方法の確立であり、概ね達成した。また次年度計画していた(3)実験室プラズマを用いた極端紫外線・軟X 線の放射強度データ取得、および(4)実験室プラズマにおける放射強度の数値計算による導出についても、部分的に達成した。 (1)について、英国ケンブリッジ大学での議論によりほぼ完了した。今後も継続的な議論を行うことで、より原子データの理解を深めていく。 (2)について、任意の電子エネルギー分布および密度条件における定常時の放射スペクトルの計算が可能となった。一方で、プラズマ条件が急激に時間変化する場合の放射スペクトルについて、まだデバッグが完了していない。太陽フレア時の放射スペクトル計算を行う際には急激な時間変化を加味しなければならないため、このコードを完成させることが今後の課題となる。 (3)について、核融合科学研究所の共同研究が2017年度に採択されたことで部分的に達成された。2018年度も共同研究が採択されており、計画していた極端紫外線のデータについては2018年度に本格的に取得する。 (4)について、核融合科学研究所の共同研究により取得したプラズマ物理パラメータから軟X線スペクトルをモデル計算し、計測された軟X線と比較した。これにより解析手法および放射強度計算の過程については部分的に達成した。ただし現在は既存のコードの範囲での放射強度の導出を行っており、(2)の完了とともに計算過程を移行し(1)で異なる仮定のもとで計算した原子コードとの相違をモデル・実験データ両方において検討していく必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度は2017年度までの課題となっている(2)数値計算方法の確立を完了させ、(3)実験室プラズマにおける紫外線データの取得および(4)実験室プラズマにおける放射強度の数値計算による導出を進める。また2018-2019年度において、計画通り(5)様々な磁気ループおよび加速電子の条件をもとにした電子輸送および放射強度計算のパラメータサーベイおよび(6)過去に観測された太陽フレアデータにおける硬X線・電波観測を用いた極端紫外線・軟X線放射強度の導出を行う。 (2)については時間変化を伴う計算コードを完成させる。 (3)について、2018年度は極端紫外線スペクトルに焦点を当てる。2017年度の結果から軟X線の観測を用いることで高エネルギー電子の兆候が確認できたため、さらに紫外線の放射強度を比較することで、どの輝線を用いれば有意に非熱的電子を検出できるかも含め調査する。過去に取得された極端紫外線スペクトルのデータを例として頂いており、現在キャリブレーション、輝線同定および輝線強度の確認を行っている。(4)についても、2017年度において手順は確立しているため、予定通り研究を推進する。また関連研究として、2017年度の軟X線スペクトルを用いた高エネルギー電子の兆候についての結果を、論文としてまとめ、出版する。 (5)、(6)に関連して、2017年に発生したフレアで極端紫外線分光装置および硬X線望遠鏡で同時観測された、観測条件の良いものがある。連続する価数の鉄イオンから放射する極端紫外線輝線強度を比較し、また同時に放射領域周辺の硬X線放射を調査する。これにより、熱非平衡プラズマにおける電子温度の詳細診断および高エネルギー電子の空間分布の調査を行う。解析・議論は英国ケンブリッジ大学および名古屋大学の研究者と共同で取り組む。データはすでに手元に準備してあり、すぐに解析が可能な状態にある。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由として、核融合科学研究所との共同研究が採択されたことにより、旅費およびソフトウェア購入費に余裕が生じたことがあげられる。 使用計画としては論文出版費用および英語校正依頼費用を想定している。これは2017年度に行った核融合科学研究所との共同研究による軟X線スペクトルを用いた非熱的電子診断の成果の論文出版費用である。これに伴い、当初の3カ年計画では2回程度の論文出版を想定していたが、合計3回の論文出版に計画を変更する。使用計画の変更が生じた理由として、計画当初に比べて実験室プラズマの理解が深まり、分光データについてより詳細な議論をする必要があると考えたためである。ただしこの予算使用計画の変更に伴う研究計画自体の変更はない。
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Research Products
(2 results)