2017 Fiscal Year Research-status Report
非平衡定常状態及び外場下における磁気スキルミオンの駆動機構解明
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17K14327
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
奥山 大輔 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (30525390)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 磁気スキルミオン / 中性子散乱 / 非平衡状態の物理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究のターゲットである外場下及び非平衡状態における磁気スキルミオンの動向を調べるべく、外場勾配下で中性子小角散乱可能な装置、及び逆に試料内の熱勾配が小さくかつ電流下の中性子小角散乱可能な装置を立ち上げた。装置の改良は順調に進み、外場勾配下システムは日本中性子施設J-PARCに、電流下装置は米国中性子施設NISTで作成に成功した。 熱勾配下及び電場下での実験は絶縁体で磁気スキルミオンが観測されるCu2OSeO3を用いた。2 K/mm 程度の熱勾配が存在する試料で電場を印加すると数時間スケールの遅い応答で磁気スキルミオン反射が30度程度回転することが判明した。もともとCu2OSeO3には温度と磁場の履歴で2通りの安定相が選択可能であることが我々のグループが発表している。熱勾配と電場でその安定相を変調することが可能であることを示していると考えている。 熱勾配の小さい環境の電流下における磁気スキルミオンの運動は、金属で磁気スキルミオン相が観測されているMnSiを用いた。当初は理論的に予測された磁気スキルミオンの反射のブロードニングが観測されると考えていた。実験では閾値電流より高電流で磁気スキルミオン反射の回転が観測され、その回転方向は試料の両端(右端と左端)で反対方向であった。回転方向は電流反転で逆転しまた磁場反転には応答しないため、従来の熱勾配による磁気スキルミオン回転とは起源が異なっていることがわかった。最近別グループにより、試料の端では粘性が異なり運動速度が遅くなるため磁気スキルミオンが蓄積される現象が発表された。MnSiの磁気スキルミオン相も同様の粘性の違いの蓄積現象が起きていると考えると、我々の結果は理解可能である。 以上のように、磁気スキルミオンでは従来予想していたよりも広い範囲まで試料の端で現れる効果の影響が残り、また遅いダイナミクスが支配していることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々の研究を実施するために必要な外場及び電流下において中性子小角散乱実験が可能な装置の改良は当初の予定通りに平成29度の前半で終了し、実際に磁気スキルミオンを観測する実験を開始した。当初予想していた磁気スキルミオンの外場及び電流下での磁気スキルミオンの応答やダイナミクスとは異なった結果が出ており、背景の物理を理解するためには追加の実験が必要なため論文の執筆は遅れているが、最近データを揃えたため執筆を開始している。 具体的には、Cu2OSeO3の実験では、熱勾配有りと無しの状況を切り分けて電場を印加する実験を行い、2 K/mm 程度の熱勾配を印加した状況のみで磁気スキルミオンが電場に応答して回転する現象が観測された。 MnSiの実験では温度勾配による効果を取り除いた電流下における磁気スキルミオンは、閾値電流以上の電流で磁気スキルミオンは駆動し、その運動は試料の端付近の粘性によって支配されていることが判明した。予想していた結果とは異なっているが、大枠の現象は平成29年度の実験で既に明らかになっていると考えている。 装置の改良及び研究の進捗状況は当初の計画以上に順調ではあったが、両方の研究共に当初予想していたことよりも複雑な物理が背景にありその解釈に時間を要したため、論文の執筆はやや遅れていたが最近執筆を開始している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度で行なった実験は成功し、外場下及び電流下においての磁気スキルミオンの応答を大まかに決定することができた。その結果は部分的に論文及び学会で発表を行なった。平成29年度で大局的には外場下及び電流下においての動向を解明できたと考える。 Cu2OSeO3では、温度勾配の有無と電場の有無の全ての条件を切り分けて実験を行い、温度勾配下かつ電場印加した時のみに数時間の時間スケールで磁気スキルミオンが変化することを観測することに成功している。そのため、これ以降は実験的な進展よりは物理を構築することが必要であり、それに時間を要している。現在、共同研究者とその起源を議論しているが、おそらくは磁気スキルミオンにより生み出される異常ネルンスト効果の逆効果を起源とした現象を観測しているのではないかと考えている。 熱勾配のない電流下におけるMnSiの磁気スキルミオンは、最近ようやく背景の物理を理解することに成功している。一方で、試料の端付近の粘性により磁気スキルミオンがどのような時間スケールで電流の印加に応答しているかは興味深く、当初の予定にはないが電流の反転に対するダイナミクスを捉える研究を推進していこうと考えている。このような実験は、物質が異なるがCu2OSeO3で観測されている電場への非常に遅い応答の物理を解釈する上でも重要になると考えている。また、MnSiで当初予定していた理論的に予測される磁気スキルミオンの反射のブロードニングを観測するには、今回の実験結果を踏まえて、試料の両端付近で測定を行う必要があると判明した。残念ながら平成29年度では、その実験を行えなかったため、平成30年度で詳細な電流変化を観測し、磁気スキルミオン反射のブロードニングが起きるPlastic flowから動的秩序状態への変化を観測し、超伝導の磁束渦の物理との違いがあるのかを議論したいと考えている。
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Causes of Carryover |
実験計画時に予定していた冷凍機の金額を値引きでき、さらに液体Heの購入が別予算でまかなえたため、残額が発生している。残額は、申請書に書かれている当初予定していて最終的に購入を見送ったナノボルトメーターの購入、及び熱勾配のない電流下での実験で新規に予定している磁気スキルミオンの電流変化への応答を観測する実験の旅費に使用したいと考えている。
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Research Products
(17 results)
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[Presentation] MnSiで観測される磁気スキルミオン反射の回転とブロードニングの特異な電流密度及び温度依存性2017
Author(s)
奥山大輔, M. Bleuel, Q. Ye, P. Butler, 星野晋太郎, 岩崎惇一, 永長直人, 吉川明子, 田口康二郎, 十倉好紀, 東大樹, 南部雄亮, 佐藤卓
Organizer
日本物理学会2017年度秋季大会
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