2018 Fiscal Year Research-status Report
非平衡定常状態及び外場下における磁気スキルミオンの駆動機構解明
Project/Area Number |
17K14327
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
奥山 大輔 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (30525390)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 磁気スキルミオン / 中性子散乱 / 非平衡状態の物理 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29度に立ち上げた試料内の熱勾配が小さい状況下で電流印加実験可能な中性子小角散乱セッティングを改造し、交流電流を印加して磁気スキルミオンのダイナミクスを調べる研究を米国中性子施設NISTで開始した。研究対象物質は、前年度の研究で定常電流下の磁気スキルミオンの振る舞いを調べ、素性を良く知っているMnSiを用いた。MnSiは前年度の研究により、閾電流密度よりも高電流では磁気スキルミオン反射が空間的に不均一な回転(回転方向は5度程度で、試料の右端と左端で反対方向)を示すことを明らかにした。この磁気スキルミオンの回転は磁場反転には応答しないが、電流反転を行うと回転方向が反転した。また、磁気スキルミオンの回転は電流を切っても元の角度には戻らず、転移温度よりも温度を上げるか、逆バイアスの電流を印加することで、磁気スキルミオンは電流印加前の状態に戻ることが判明している。そのため、電流反転に伴う磁気スキルミオンの回転方向の反転の時間変化を変動電流を用いることで詳細に調べた。まずは、矩形波の変動電流を用いて磁気スキルミオン回転の応答を調べた。その結果、矩形波の変動電流では、磁気スキルミオンの回転に約5秒程度の非常に遅い緩和が存在していることが判明した。これは通常の磁性体のドメイン壁の駆動(10^(-9) sec程度の時間スケール)と比べると9桁以上も遅い応答である。また、緩和よりも早い周波数0.1Hz以上の変動電流を加えても、磁気スキルミオンの回転は電流変動に追随せず、また元の回転角度0の位置から動かないことがわかった。以上のように、磁気スキルミオンの回転は、磁気現象にもかかわらず非常に遅い緩和が支配していることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成30年度は前年度に作成した電流中で熱勾配の少ない状況下で実験可能なセッティングを元に、変動電流中で中性子小角散乱が可能なセッティングへと改造し、実験を行うことを考えていた。しかし、当初使用を予定していた正弦波の変動電流発生装置が使用できず、急遽矩形波の変動電流発生装置を使用して研究を行うことになり、その後追加で正弦波の変動電流の実験を行うこととなった。追加の実験を行う際のマシンタイムのスケージュールの都合により、研究に遅れが生じた。結果的に正弦波の変動電流では、周波数を小さくしていくと電流の変動に対して温度も変動することが判明し、数秒の遅い緩和を調べるには適していないことが判明し、結果的に矩形波の変動電流での実験で磁気現象としては異常な数秒の緩和を観測することに成功した。また、平成29年度に行った実験結果は、既に科学雑誌に論文として投稿し、先日掲載が決定された。変動電流で得られた実験結果を含んだ論文は、最近執筆を開始した。
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Strategy for Future Research Activity |
2年間の研究で電流中の磁気スキルミオンの非平衡定常状態や外場下における振る舞いの大部分を明らかにすることができた。その結果のほとんどを、論文及び学会で発表を行なった。Cu2OSeO3の温度勾配下かつ電場印加した時のみに観測される数時間の時間スケールで磁気スキルミ オンが変化や、MnSiの純粋な電流中の電流反転に対する数秒の緩和を見ると、磁気スキルミオンが磁性現象にもかかわらず、外場や電流に対して非常に遅い応答を示すことがわかった。今後は、電流の周波数依存性の詳細を調べることで磁気スキルミオンの回転が起き始める周波数で何が起きているのか、また、磁気スキルミオンに可能な限り大きな電流密度や電場を印加したときの量子相転移、同じ幾何学的な位相欠陥である超伝導の磁束渦と比較するために、磁気スキルミオンの電圧ノイズと中性子小角散乱の同時測定などを行い、磁気スキルミオンを使った幾何学的な位相欠陥の動力学を解明したいと考えている。
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Causes of Carryover |
本研究課題では米国NISTが有する中性子施設との共同研究を柱の一つとしている。研究を開始した初期の段階ではNIST と共同で中性子散乱用の低温度勾配試料ホルダーの開発には成功し、低温かつ高電流下での実験は可能となった。しかし、実験装置の不具合、中性子施設側のマシンタイムの配分事情、米国政府機関閉鎖の影響を受け研究遂行計画に変更が必要となり、連鎖的に追加の実験と論文の投稿が遅延した。次年度使用金は、最近「communications physics」に論文の掲載決定を通知されたので、その大部分を掲載料の支払いに使う予定である。
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[Presentation] 中性子非弾性散乱と放射光精密構造解析によるPrTr2Al20(Tr = Ti, V)の結晶構造特性と結晶場解析2019
Author(s)
奥山大輔, 辻本真規, 佐賀山基, 志村恭通, 酒井明人, 眞方篤史, O. Garlea, B. Weing, 中辻知, 佐藤卓
Organizer
日本物理学会第74回年次大会
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[Presentation] MnSiにおける変動電流中の磁気スキルミオン格子のダイナミクス2018
Author(s)
奥山大輔, M. Bleuel, Q. Ye, P. Butler, 永長直人, 吉川明子, 田口康二郎, 十倉好紀, 東大樹, 南部雄亮, 佐藤卓
Organizer
日本物理学会2018年度秋季大会
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[Presentation] MnSiにおける電流中の磁気スキルミオン格子の塑性流動的な振る舞い2018
Author(s)
奥山大輔, M. Bleuel, Q. Ye, P. Butler, 永長直人, 吉川明子, 田口康二郎, 十倉好紀, 東大樹, 南部雄亮, 佐藤卓
Organizer
日本物理学会2018年度秋季大会
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[Presentation] Stabilizing the Skyrmion Phase in Cu2OSeO3: The Influence of Field, Temperature and Time2018
Author(s)
Johannes D. Reim, Koya Makino, Daiki Higashi, Daisuke Okuyama, Taku J Sato, Yusuke Nambu, Elliot P. Gilbert, Norman Booth, Shinichiro Seki, Yoshinori Tokura
Organizer
International Conference on Magnetism 2018
Int'l Joint Research
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