2017 Fiscal Year Research-status Report
トポロジカル絶縁体表面の熱電物性の直接観察とその解明
Project/Area Number |
17K14329
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
松下 ステファン悠 東北大学, 理学研究科, 助教 (90773622)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | トポロジカル絶縁体 / 熱電物性 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、BSTS薄膜のホール係数、量子振動(SdH振動)、及びゼーベック係数の膜厚依存性測定、ゲート電圧印加可能な熱電物性測定デバイスの開発、Sn-BSTS単結晶の育成とその熱電物性測定、を行った。BSTS薄膜の膜厚を14 nm以下にすることで、ホール係数から求まる系全体のキャリア密度と、SdH振動から求まる表面キャリア密度とが一致することを明らかにした。また、ホール係数とゼーベック係数の符号が不一致になる温度、膜厚領域が存在することを発見した。加えて、新たに開発した測定用デバイスを用いて、室温でのキャリア密度制御による電気抵抗率とゼーベック係数の測定に成功した。更に、抵抗率40 Ωcm程度のSn-BSTS単結晶育成に成功し、2 Kにおいて明瞭なSdH振動を観測した。また、300 Kから2 Kまでの電気抵抗率、ゼーベック係数、熱伝導率の観測にも成功した。 本研究は、高い熱電変換効率が期待されるTI表面の熱電物性の観測と、そのメカニズムの解明を目的としている。一般に、薄膜化によってバルクの体積比を減少させると、表面状態の性質が顕在化すると考えられているが、それを定量的に示した例は少ない。今回の成果は、薄膜化によってバルクキャリアがほぼ存在しなくなることを定量的に示しており、14 nm以下の薄膜における熱電特性が表面状態によるものであることを保証する重要な結果である。ホール係数とゼーベック係数の符号の不一致は、TI物質特有の、バルクと表面キャリアの移動度の差(10~100倍)によるものと考えており、TI物質の輸送現象のメカニズム解明には両者の測定が不可欠であることを示唆する結果である。 Sn-BSTSについては、BSTSとの比較に十分な高抵抗試料を得ることかできたことで、TI物質の熱電物性の議論をより一般化できるようになった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度計画では、BSTS超薄膜の熱電物性測定とキャリア数依存性の測定、及びSn-BSTS単結晶の育成と薄膜化を目標としていた。これらに対し、14 nm以下のBSTS薄膜におけるホール係数、SdH振動、ゼーベック係数の同時測定によって、表面キャリアとバルクキャリアの存在比や、移動度の違いによるホール係数とゼーベック係数への寄与率の違いなど、輸送現象解明に必要な詳細な情報を得ることに成功した。また、キャリア数制御用の測定デバイスを完成させ、室温におけるゼーベック係数の測定に成功した。これらの成果によって、次年度に室温から低温までのBSTS薄膜の熱電物性のキャリア密度依存性の測定が十分に遂行可能となった。 また、Sn-BSTSについては、BSTSと同程度以上の高い抵抗率を示す試料を得ることに成功し、その熱電物性測定も成功した。これによって、BSTSとの比較に十分な試料を得ることかでき、TI物質の熱電物性の議論をより一般化できるようになった。 以上の成果・進捗状況から判断して、本研究はおおむね順調に進展していると判断する。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策について、BSTS薄膜に関しては当初の計画通り、ゲート電圧によってキャリア密度を制御し、熱電物性の測定を室温から低温にかけて行う。また、H:Si(111)基板を用いた薄膜作製についても、順次遂行する予定である。 一方のSn-BSTSについては、単結晶を用いてマイカ基板上への蒸着を試みたところ、硫黄の組成制御が困難なことが判明し、蒸着条件をBSTS薄膜の作製条件から大幅に変更する必要があることが分かった。残り2年間の研究期間を鑑み、高品質な薄膜作製の条件出しが間に合わない可能性も考えられる。そこで、蒸着条件の最適化を行うと共に、同時進行で、剥離法によって単結晶から数μm~数十nmの薄膜を作製し、その熱電物性を測定する。また、キャリア制御に関しては、トップゲート構造を作製することで、膜厚が厚い試料についても遂行することが可能となる。これらの実験を行うことで、仮に蒸着法による数nmの薄膜作製が出来なかった場合においても、Sn-BSTSの熱電物性に関する多くの知見を得ることができ、それらをBSTSの結果と比較することで、TI表面の熱電物性に関する議論をより一般化できると期待する。
|
Causes of Carryover |
前年度は、本研究とも関連したトポロジカル絶縁体の熱電物性研究に関する別途の研究助成金が採択されたため、当初計画していた設備・消耗品等の経費はそちらで賄った。これにより2018年度における本研究の助成金が大幅に増額した形となったが、これらは主に研究の測定精度を向上させるための測定機器の購入に充てることを計画している。
|