2017 Fiscal Year Research-status Report
時間分解X線磁気円二色性測定による磁性薄膜の光照射磁化反転現象の研究
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17K14334
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
平田 靖透 東京大学, 物性研究所, 助教 (50750692)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | スピントロニクス / 光誘起現象 / 磁気スイッチング / 磁気ダイナミクス / X線磁気円二色性 / 放射光X線 / X線自由電子レーザー / 強磁性薄膜 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、研究が活発なスピントロニクスの分野の中でも、外部磁場によらず、円偏光した光の照射のみによる磁化の反転・制御が可能となる全光ヘリシティ依存スイッチング(AO-HDS)という現象が注目を集めている。これまでフェリ磁性薄膜にのみ生じるとされてきたAO-HDSであるが、最近になって強磁性薄膜でのAO-HDSが報告され、そのメカニズムに対して関心が高まっている。本研究ではAO-HDSが報告されているCo-Pt系強磁性薄膜および、それに類似したL10型FePt合金薄膜について、元素サイトごとの磁性のダイナミクスを時間分解X線磁気円二色性(TR-XMCD)測定によって観測することを目的とする。同様の磁化反転現象が知られているGd-Fe-Co系フェリ磁性薄膜との差異を明らかにし、磁化反転のメカニズムを解明することで、効率的な磁化反転の条件を見出し、磁性デバイス開発への示唆を得たい。研究手法としては、Co-Pt系超格子薄膜及びL10型FePt合金薄膜について、軟X線領域(Co/FeのL吸収端)および硬X線領域(PtのL吸収端)のそれぞれに対し、サブナノ秒時間領域とサブピコ秒時間領域の両方についてTR-XMCD測定を行う。このために、放射光施設SPring-8のBL07LSUおよびBL19LXU、BESSY-IIのUE56-1_ZPM、そしてX線自由電子レーザーSACLAのBL3、という計4つのビームラインを利用してTR-XMCD測定を実施して、磁性の消失・反転や緩和の過程を明らかにする予定である。これまでのところ、既に成果を発表しているL10型FePt合金薄膜の軟X線サブナノ秒領域時間分解測定に加えて、Co-Pt系超格子薄膜の軟X線サブナノ秒領域時間分解測定、およびL10型FePt合金薄膜の硬X線サブピコ秒領域時間分解測定、にそれぞれ成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、Fe/Coサイトの消磁の緩和ダイナミクスを明らかにできる軟X線のサブナノ秒領域での時間分解測定であるが、これまでにSPring-8のBL07LSUにおいてL10型FePt合金薄膜の部分電子収量法によるTR-XMCD測定に成功していたが、本研究において同様の手法を用いてCo-Pt系超格子薄膜のTR-XMCD測定に成功した。AO-HDSにつながるポンプ光の円偏光ヘリシティ依存性もわずかに確認することができたが、本質的なものであるかの判断には今後の議論が必要である。 続いてPtサイトの消磁の緩和ダイナミクスを明らかにできる硬X線のサブナノ秒領域での時間分解測定では、SPring-8のBL19LXUにおいてL10型FePt合金薄膜およびCo-Pt系超格子薄膜の蛍光法によるTR-XMCD測定を試みた。しかし当該ビームラインでは初めてのセットアップでの実験であることもあり、ビームタイム中に測定を実現するまでには至らなかった。 さらに、Ptサイトの消磁の立ち上がり領域のダイナミクスを明らかにできる硬X線領域のサブピコ秒領域での時間分解測定として、SACLAのBL3でL10型FePt合金薄膜の蛍光法によるTR-XMCD測定に成功した。緩和領域においてはBL07LSUでの結果と整合的である一方、立ち上がり領域では先行研究における可視光による時間分解磁気光学カー効果(TR-MOKE)測定(概ねFeサイトのダイナミクスを反映している)との差異も見られた。これはSACLAの硬X線を用いた磁気ダイナミクスの研究としては初めての、画期的な成果であり、現在論文投稿の準備中である。またCo-Pt系超格子薄膜についても同様の測定を試みたが、試料が薄い薄膜であったためX線自由電子レーザーによる損傷に耐えられず、十分な結果は得られなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、Fe/Coサイトの消磁の立ち上がり領域のダイナミクスを明らかにできる軟X線のサブピコ秒領域での時間分解測定であるが、今夏にBESSY-IIのUE56-1_ZPMにおける測定を予定している。これに加えて、試料全体の磁気モーメントの大部分がFe/Coサイトによって担われていることを第一原理計算によって明らかにできたことを受け、可視光によるTR-MOKE測定によってFe/Coサイトの磁気ダイナミクスの概観を明らかにし、ポンプ光の円偏光ヘリシティ依存性の解明やPtサイトにおける磁気ダイナミクスとの比較を実現するべく、実験室系でのTR-MOKE測定システムの準備も進めている。 硬X線のサブナノ秒領域での時間分解測定については、SACLAのBL3での測定でも消磁の緩和の時間領域をある程度カバーできることから優先度は低いが、本研究での測定に類似したセットアップの時間分解X線回折測定をSPring-8のBL19LXUで今春に成功させることができたため、引き続き挑戦する予定である。 Co-Pt系超格子薄膜の硬X線領域のサブピコ秒領域での時間分解測定については、X線自由電子レーザーによる試料の損傷が問題であったため、ソフトマターのX線自由電子レーザーを用いた物性測定に倣い、大量の試料を用意して試料を移動させながら測定するなどの方策で解決したい。これによってPtサイトの消磁の立ち上がり領域のダイナミクス及びポンプ光の円偏光ヘリシティ依存性を明らかにし、BESSY-IIのUE56-1_ZPMにおけるCoサイトの結果と比較することで、AO-HDSにおける磁性サイトごとのダイナミクスに直接アプローチすることが可能となり、強磁性薄膜のAO-HDSのメカニズム解明に大きく寄与できると期待される。
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Causes of Carryover |
本年度の物品の購入において主として想定していたのはしばしば故障するマイクロチャンネルプレート検出器であるが、本年度は幸運にも故障がなかったことに加え、実験のための海外出張費を含む旅費が計画よりも高額となり、次年度もまた高額となることが予想されているため、検出器の予備品の購入も控えていたことにより、物品費が本来の計画よりも少ない使用額となり、次年度使用額が生じた。
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Research Products
(4 results)