2017 Fiscal Year Research-status Report
Investigation of roles of phonons and phonon-induced functional properties in strongly-correlated materials
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17K14336
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
野村 悠祐 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (20793756)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | フォノン / 電子格子相互作用 / ニッケル酸化物 / 第一原理計算 / クーロン相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
H29年度に予定していた課題としてニッケル酸化物(RNiO3、Rは希土類原子)の電子格子相互作用の見積もりがあげられる。ニッケル酸化物はeg軌道に1つの電子がある系で、eg軌道に1つのホールが存在する銅酸化物高温超伝導体との類似がある可能性があり、その物性解明は重要な課題である。RがLuやYなどの場合、RNiO3は温度を下げていくと、磁性をともなわない金属絶縁体転移を示す。この転移の興味深い点は、2つのeg軌道の縮退を破るようなヤーン・テラー歪みの不安定性が内在しているにもかかわらず、そのかわりにNi-O間の原子間の距離の不均化をもたらす呼吸モード(Breathing mode)の変位が誘起されることである。なぜヤーン・テラー不安定性が不活性化し、呼吸モードの変位が誘起されるかを解明するためには電子格子相互作用とクーロン相互作用の両方を同等に取り扱い、エネルギーのバランスを考える必要がある。
本研究では制限乱雑位相近似(cRPA)と新たに開発された制限密度汎関数摂動論(cDFPT)の両方の手法を用い、eg軌道の電子間に働く有効的なクーロン相互作用と電子格子相互作用の大きさを見積もった。その結果、確かに電子はヤーン・テラー型のフォノン及び呼吸モードのフォノン両者と結合していることがわかった。すなわちヤーン・テラー型、呼吸モードのフォノンは互いに競合関係にある。面白いことに、この競合関係において呼吸モードが優勢になるのに、Niのオンサイトのクーロン相互作用ではなくオフサイトの相互作用が重要な役割を果たしていることが明らかになった。オフサイトクーロン相互作用があると電子はサイトごとに占有数を変えたがるが、同様に呼吸モードも占有数の違いを好む。そのため、オフサイトクーロン相互作用と呼吸モードは協力関係にある。この相乗効果によりヤーン・テラー不安定性に打ち勝つことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H29年度における研究計画はニッケル酸化物の金属絶縁体転移における格子自由度の役割を明らかにすることであった。研究の概要にも述べたように、cRPAとcDFPTという新たな第一原理の計算手法を用いることによって、eg軌道間の有効的なクーロン相互作用や電子格子相互作用の現実的な値を非経験的に見積もることができた。その結果、オフサイトのクーロン相互作用と呼吸モードのフォノンの協力関係が明らかになった。これは、なぜヤーン・テラー歪みが起きないのかということに関する重要な知見である。このような新たな知見が得られつつあり、"(2) おおむね順調に進展している"の評価が妥当である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、当初予定していたニッケル酸化物やFeSe薄膜の研究に加えて、機械学習の技術を使った、電子格子相互作用のあるハミルトニアンの新たな解析手法の開発に取り組むことを予定している。物性物理における機械学習の応用の研究は進展がここ数年目覚ましく、その有用性が次第に明らかになってきた。中でも、機械学習で用いられる人工ニューラルネットワークの一つである制限ボルツマンマシンを用いて、電子格子結合系の基底状態を表す変分波動関数を構築しようと考えている。制限ボルツマンマシンは様々な関数形を柔軟にかつバイアスなく表現できることで知られ、波動関数を近似する上でも優れた性能を示すと期待できる。この課題に取り組み、電子格子相互作用のある系のハミルトニアンを精度よく解析できるようになれば、強相関電子系におけるフォノン自由度の役割について、より有用な知見が得られると期待している。
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Causes of Carryover |
当初予定していた、人件費・謝金の分で、相手方の都合により来られなかった招待者がいたため、次年度使用額が発生した。 次年度は海外での学会に複数参加することや、共同研究している海外の研究機関への出張も予定しているため、次年度使用額と翌年度分を合算して旅費として主に使用する。
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Research Products
(10 results)