2017 Fiscal Year Research-status Report
多軌道強相関電子系における軌道・磁気揺らぎと超伝導の理論研究
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17K14338
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
山川 洋一 名古屋大学, 理学研究科, 助教 (60750312)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 強相関電子系 / 軌道自由度 / 超伝導 / 鉄系超伝導体 / 軌道揺らぎ / 磁気揺らぎ |
Outline of Annual Research Achievements |
鉄系超伝導体をはじめとした多軌道系では、電子の持つ電荷・スピン・軌道の自由度が互いに協力・競合して非自明な現象が起きる。本研究の目的は、これらの自由度間の結合による揺らぎ発達や秩序形成と、それらに由来する非従来型超伝導の発現機構の解明である。2017年度は、鉄系超伝導体のFeSe系について重点的に研究を行った。ここで重要となるのが、物質依存性と電子間相関である。FeSeの物質の特徴を捉えるために、第一原理計算の結果を角度分解光電子分光などの実験結果と比較して構築した、現実的な多軌道模型を基に解析した。さらに軌道揺らぎの発達には多体相関が本質的に重要な役割を果たす。そのため、多体電子相関の高次項であるMaki-Thompson及びAslamazov-Larkin型のバーテックスを電荷・スピン・軌道について自己無撞着に計算し議論した。 FeSeの大きな特徴の一つが、鉄系超伝導体のなかでも最も超伝導転移温度を持つ電子ドープFeSeの超伝導相である。実験より符号反転のないS波の超伝導である事が報告されており、従来のスピン揺らぎのみの理論から説明するのは困難である。そこで本研究では、上記の多体相関を考慮した解析を行った。その結果、バーテックス補正を介してスピンと軌道の揺らぎ間の干渉が生じ、両者の協力により高いTcを持つフルギャップS波の超伝導状態が実現することを見出した。さらに、FeSeの別の興味深い振る舞いとして、圧力誘起磁気転移とその近傍での高温超伝導相がある。本研究では第一原理計算から圧力効果を議論し、ヒ素の高さ変化によりフェルミ面の枚数が増えることを予測し、その結果として圧力誘起磁気転移と高温超伝導相が説明できることを見出した。以上の結果は、鉄系超伝導体やFeSe系の電子物性解明として意義に加え、軌道のスピン自由度の協力が超伝導発現に重要であることを表している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
軌道とスピンの揺らぎ間の協力により、電子ドープFeSeにおけるS波フルギャップの高温超伝導が非常によく説明できることを見出した。さらに、圧力印加による磁気転移の起源が、構造変化にともなうフェルミ面のトポロジーの変化であることを提案した。また、その近傍では軌道の揺らぎも同時に発達し、やはり高温超伝導相の実現することを見出した。鉄系超伝導体における高温超伝導の発現機構として、軌道とスピンの揺らぎ間の協力機構を提唱した。さらに、銅酸化物高温超伝導体においては、電荷秩序相のみならず、擬ギャップ相でも回転対称性の破れが報告された。この新たな相転移について、汎関数繰り込み群法及びバーテックス補正の計算により、銅サイト間のボンド秩序として理解できることを見出すという予定を超えた成果も出た。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の喫緊の課題が、電子ドープFeSeにおける電子格子相互作用に対するバーテックス補正の効果である。電子ドープFeSeでは、格子振動の寄与が大きい基板上に薄膜を生成した時に、最も超伝導転移温度が高くなる。このことから、電子格子相互作用に起因した電荷揺らぎも、高温超伝導の発現に寄与していると考えられている。しかしながら、第一原理計算のみの解析からは、電子格子相互作用の寄与は弱すぎて、超伝導転移温度の上昇を説明できない。一方、バーテックス補正は軌道のみならず電荷揺らぎも大きく増強させると期待される。そこで本研究では、FeSeに対する電子格子相互作用とバーテックス補正について議論し、さらなる超伝導転移温度上昇に対する効果を解析する。さらに、FeSeに不純物をドープすることで現れるネマティック臨界点と超伝導状態との関係を議論する。また、銅酸化物高温超伝導体の電荷密度波と擬ギャップの関係について解析する。当初は電荷密度秩序下での輸送係数を解析する予定だった。しかし2017年、擬ギャップ相自身で対称性の破れが報告され、我々は擬ギャップと電荷密度波が共にバーテックス補正に起因した電荷・軌道秩序で説明できることを見出した。今後はこの両者の関係を含めて解析を進める。
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Causes of Carryover |
当初の予定では、2017年度に計算機購入を物品費として計上した。しかし、計算機の価格が当初の想定を超えて高騰したため、2017年度での計算機の購入を見送った。特に、本研究においては大容量のメモリが必要だが、そのメモリ価格が特に高騰した。また、2017年度は他の予算から旅費を支出できたため、計算機の件と合わせて次年度使用額が生じた。なお、計算機購入については価格の推移を鑑みつつ、2018年に改めて購入の予定である。
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