2017 Fiscal Year Research-status Report
高温超伝導体探索に向けた2次元光電子分光法によるイリジウム酸化物の原子軌道解析
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17K14341
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
堀江 理恵 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 特別契約職員(助教) (60784543)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 原子軌道解析 / 2次元光電子分光 / 新規高温超伝導体探索 |
Outline of Annual Research Achievements |
Sr2IrO4 は、層状ぺロブスカイト型(K2NiF4 型)構造を持つが、これは銅酸化物高温超伝導体の母物質の一つであるLa2CuO4 と同じ結晶構造である。La2CuO4とは、結晶構造の他に電子構造や磁気構造など、複数の類似点を持つことから、Sr2IrO4 にキャリアをドー プすることで高温超伝導体になる可能性があると期待されている。 本研究実施者は、世界的に未だ報告のない最高の電子ドープ量のイリジウム酸化物単結晶Sr1.88La0.12IrO4 の育成に成功した。そこで、本研究では、価電子帯バンドからの光電子の角度分布を2次元的に一度に測定できる世界唯一の2次元表示型光電子分光器と直線偏光放射光を用いて、今まで明らかになっていなかった単結晶Sr1.88La0.12IrO4 の2次元バンド分散とフェルミ面付近のバンドを構成する原子軌道の解析を行う。そして、さらにLaのドープ量を増やしたSr2xLaxIrO4 単結晶を育成し、La ドープ量の違いにおける2次元バンド分散の変化や高温超伝導発現に関わるフェルミ面直下のバンドを構成する原子軌道の違いを直接観測により明らかにすることで、Sr2IrO4 の電子ドープによる超伝導体探索の手がかりを得ることを目的としている。 本年度は、新しい高濃度ドープの方法を模索しつつ、いくつかの単結晶を育成した。Laの仕込み濃度15 %、大きさ1 mm×2 mmの単結晶を育成して光電子分光の試料とした。光電子分光の測定は、表面数層の電子状態を観測するため、表面に大気中の水などが付かないよう、超高真空中で、試料に接着させたCu棒を倒すことで劈開し、清浄な表面を出して実験した。劈開後、LEEDの測定を行って、清浄面を確認し、光電子分光測定の第一歩となる試料のスペクトル測定に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
光電子スペクトルには、角度分解光電子分光の先行研究と一致する結合エネルギー付近にsバンドのピークと思われる目立つピークを観測できた。従って、試料であるSr1.85La0.15IrO4を観測できたと考えている。しかし、2次元光電子分光を測定したところ、上下に2本の筋が入り、バンド分散の広がりが測定できなかった。再度、測定に挑戦した後、本研究独自の装置である2次元表示型光電子分光器の中の、分解能を左右する障害リングの電源が故障したことが判明した。このため、原子軌道解析が可能なデータがまだ得られておらず、若干遅れ気味である。 装置の修理には、すでに取り掛かっており、現時点では最終確認の段階に入っている。今後は、標準試料であるグラファイトで測定されるパターンをチェックし、修理の完了を目指している。修理自体は可能であるので、6~7月を目処に再測定の準備に入りたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
立命館大学SRセンターBL7に設置している2次元分光分析器(DIANA)は、一度に±50度の広い取込角度で測定できるため、光電子分光測定時に原子軌道解析を可能にする遷移行列要素の影響を含む光電子放出角度分布を次元パターンとして得ることが可能である画期的な装置である。こちらの装置の特色を最大限に活かすべく、まずは、徹底的に装置の分解能を左右する障害リングの修理を行う。万が一、装置の修理がうまく行かなかった時には、大変時間のかかる測定になってしまうが、広島HISORにある岡山大学のビームラインや施設の偏光光電子分光ステーションを使うことも考え、今年度中に成果が出せるように努力する。 また、光電子分光の実験を行いやすく、確実に試料を測定をするために、単結晶試料のサイズを大きく育成することも試みる。Ptるつぼに入れる試料の総量を多くすること、溶融させてから再結晶させるまでの冷却時間を長くとること、などを行うことで、単結晶サイズを大きく作製することが可能であると考えている。Laドープ濃度が濃いと、単結晶サイズが小さくなる傾向にあることが、今までの実験からわかっているので、単結晶サイズの大きな結晶を作製するためには、La濃度10 %程のやや低い濃度の結晶育成も試み、単結晶サイズが最大になる実験条件を見出し、光電子分光の実験に用いることも検討する。
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Causes of Carryover |
購入した白金るつぼが予定額より低価格で購入できたため、次年度使用額が生じた。こちらは、本研究に関する光電子分光実験のための旅費、学会発表のための旅費に使用することを計画している。
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Research Products
(2 results)