2018 Fiscal Year Research-status Report
電子ドープ型銅酸化物におけるd波―s波超伝導対称性混合・競合状態の研究
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17K14348
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Research Institution | 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び中性子科学センター(研究開発 |
Principal Investigator |
池内 和彦 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び中性子科学センター(研究開発, 中性子科学センター, 研究員 (90435595)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 試料育成 / 格子振動測定 |
Outline of Annual Research Achievements |
電子濃度x = 0.12(低濃度)とx = 0.16(高濃度)のPLCCO単結晶を用いて、放射光非弾性散乱実験を行なった。PLCCO x = 0.12について、Q = (4, 0, 0) から、dQ = (0, q, 0) 方向に伝播する横波音響振動の分散関係を決定したところ、非常に微小ではあるものの、Tc (= 25 K)以下で、振動数が低下することを見出した。この振動数の低下は、5 meV 程度を境に見られることがわかった。PLCCO x = 0.11について、超伝導転移に伴い、 (0.5, 0.5) 近傍で振幅を持つd波的なギャップが電子系に見られることが、角度分解光電子分光法により報告されている[1]。(0.5, 0.5) 近傍のギャップは、準粒子励起に 5 meV 程度の影響をもたらすものと見積もられ、本実験で観測できた格子振動の振動数低下との密接な関係を示唆する。つまり、本研究において、超伝導ギャップ関数の対称性を、準粒子励起の観測を基に同定しうる結果が得られたものと考えられる。一方、PLCCO x = 0.16については、同様の振動数低下が、より高い振動数で起こっていることを見出した。本組成では、Tc = 20 K と x = 0.12 のものよりも低く、平均場理論に習えば、ギャップ関数のエネルギースケールは小さいはずである。この結果は、銅酸化物高温超伝導系で長年問題となっている、擬ギャップや異常金属相と関連して興味深い。 引き続き、伝播方向依存性を明らかにするために、単結晶試料の大型化を図り、中性子散乱実験による高分解能を行っていく。 [1] H. Matsui et al., PRL 95 (2005) 017003.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
30年度に実施した放射光実験に引き続き、31 年度上期に2件、原子炉施設での実験を予定しており、予定通り実施できれば、結果についての目処が立つ。単結晶試料育成環境についても必要設備が大体揃い、すでに、PLCCO試料の合成を開始しているところである。追加の非弾性散乱実験も合わせて、31年度中に一通りの実験を終えて、続く年度で成果公表を行いたい。
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Strategy for Future Research Activity |
30 年度に計画していた試料合成環境は、概ね整備が整い、既にPLCCO試料の合成に着手している。加えて、共同研究者との連携を図り、提供を受ける試料も使いながら実験を進めていく。今年度は、いよいよ格子振動の温度変化を測定し、その異方性を観測する段階になってきた。主軸となる実験は、30 年度に得られたので、引き続き、追加の非弾性散乱実験を行い、結果の解析、発表を行う。なお、現段階で国内外の複数の中性子施設での実験時間の確保出来ている。
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Causes of Carryover |
30年度に生じた原子炉施設のトラブル等のため、三軸分光器を用いた中性子実験ができず、準備費用や旅費についての予算執行ができなかった。現時点で施設復旧の連絡を受けており、30年度実験課題を繰り越して実施予定である。成果公開や追加実験にかかる費用を見据えて、31年度に繰り越した予算を執行していく。
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[Presentation] 鉄系超伝導体FeSeの(pi, pi)磁気励起2018
Author(s)
K. Ikeuchi, S. Shamoto, T. U. Ito, M. Ishikado, T. Watashige, S. Kasahara, R. Kajimoto, M. Nakamura, Lieh-Jeng Chang, T. Shibauchi, and Y. Matsuda
Organizer
日本物理学会2018年秋季大会