2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K14367
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
小林 拓実 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 主任研究員 (40758398)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 光時系 / 磁気光学トラップ / 長期連続稼働 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究のテーマは次世代の時刻供給を担う連続稼動可能で高安定な光時計(レーザーの光周波数を基準とする時計)の開発である。現状では、マイクロ波時計である水素メーザーが時刻を供給しているが、これに変わる光時計を開発し、より安定な時系を構築することが最終目標である。候補として、ヨウ素安定化レーザー、高安定光共振器にロックしたレーザー、原子ビーム、磁気光学トラップ等を考えた。原子ビームは有力な候補と考えていたが、米国標準研NISTで、2019年にCa原子を用いた実証に成功したと報告があった。そのため、異なるアプローチで研究を行うべく、研究計画にも記載の通り、Yb原子を用いた磁気光学トラップを用いた時計の開発へシフトすることにした。
今年度は、Yb原子ビームが真空窓に付着する問題を解決すべく、真空中に加熱ガラスを導入した。昨年度に開発した自動レーザーリロックシステムも手伝って、399 nmと556 nmの2段階のYb原子の磁気光学トラップを半年間連続で続けることに成功した。稼動率は80%程度で、完全な連続運転ではないが、このレベルの長期運転はこれまで報告がない。今年度に得られた結果は、論文投稿予定である。
磁気光学トラップを完全に連続稼働できなくなくても、トラップした原子をプローブする高安定レーザーが連続稼働していれば、光時計として用いることができる。これは上記の高安定共振器にロックしたレーザーと、磁気光学トラップのハイブリッド方式である。この方法でどれくらいの安定度が得られるかシミュレーションを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Yb原子は、常温では固体のため、加熱して蒸気にする。原子は細いノズルを通してビーム状にして取り出し、ビームに対向するレーザーを照射し、原子の速度を減速する。この方式は、冷却原子、光時計などの研究でよく用いられる方法であるが、減速レーザーを導入する真空窓に原子ビームが照射されるため、原子が付着する問題があった。これを解決すべく、今年度は、真空窓の手前に、約200℃に加熱したガラス板を真空中に導入した。200℃程度に真空窓を加熱すると、Yb原子の付着を抑えることができることは知られていたが、ガラスを真空中に置くことで、省エネを実現した。この方式により、半年以上連続してビームを照射しても、透過率の大きな減少が見られないことを確かめた。
今年度に行った他の装置改良として、1)リモート監視体制を整えた、2) レーザーのロックが落ちたときに、メールアラートを自動で送るシステムを用意した。3) 2次冷却用ファイバーレーザーを、原子捕獲用チェンバーの近くに移動し、より高いパワーで原子を冷却できるようにした。これにより、捕獲原子数を増やすことに成功した。
原子遷移としては、狭い自然幅を持つ556 nm遷移を使う予定である。これをプローブする光は、狭線幅のファイバーレーザーを用いる。高安定光共振器に安定化したNd:YAGレーザー(1064 nm)に対して、光周波数コムをロックする。その後、光周波数コムに対してファイバーレーザーを位相同期する。この方法で、原理的にはファイバーレーザーの周波数安定度は光共振器でリミットされる。光共振器のドリフトレートの情報から、ハイブリッド方式を用いた時に、磁気光学トラップをどの程度の期間稼働する必要があるか、シミュレーションを行った。シミュレーションの結果、数時間程度トラップが止まっても、水素メーザーレベルの長期安定度を得られる可能性があることが分かった。
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Strategy for Future Research Activity |
稼動率を制限する要因として、1) 施設の排水ポンプ、2) 地震、3) 399 nmのインジェクションロック、4) 399 nmのファイバー透過率の減少、5)ファイバーレーザー出力後の光アンプの損傷などがあることが分かった。これらの問題を解決して、稼動率を上げる予定である。また、リモート監視システムをより充実させ、人的負担を低減させる。最終的に、年単位の連続運転可能な装置へと仕上げていく予定である。
昨年度に開発したレーザー位相同期のリロック機構の改善も行う。位相同期のキャプチャーレンジが狭いため、遅延線を用いた周波数ロックの手法を使ってエラー信号を発生し、リロックのガイドに用いていた。この方法でも数ヶ月のリロックが可能であったが、それ以上の長期になると、ビート信号強度のゆらぎによって、リロックのエラー信号の電圧がゆらぐことが分かった。数ヶ月に1度程度の頻度で、電圧のしきい値を変更する必要があり、最適な方法とは言えない。そのため、リロックに用いているFPGAに周波数カウンターの機能を追加して、リロックのガイドに用いる予定である。
シミュレーションでは、光共振器のドリフトを予測するために、線形フィッティングによる方法を用いた。今後は、時系の研究でよく用いられているカルマンフィルターを使った、より信頼性が高いと思われるシミュレーションを行う。もし、光共振器のドリフト予測の精度が向上すれば、稼動率を下げても高安定な光時系の構築が可能である。
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Causes of Carryover |
予想に反して、Yb原子の冷却に用いる399 nm光による光ファイバーの損傷を発見した。これまでの知見では、この問題を解決する方法を見つけるのは容易ではなく、光ファイバーの交換によって対応するのが最も効率的であると判断した。そのため、光ファイバーを購入するための費用を次年度に残すことにした。
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Research Products
(5 results)