2017 Fiscal Year Research-status Report
Thermal vibrations and elastic heterogeneities in glasses
Project/Area Number |
17K14369
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
水野 英如 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (00776875)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ガラス / アモルファス / 弾性不均一性 / 振動特性 / 弾性波 / 局在化振動 / ボゾンピーク / デバイ則 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ガラスの振動特性を弾性不均一性を導入した弾性力学の枠組みで記述することを目標とする。平成29年度は、ガラスの振動解析を実施し、その振動特性を比較的高周波数域のメソスケールから、マクロな連続体極限(低周波数・長波長極限)まで、幅広く明らかにした。 まず、メソスケールでは振動モードが過剰に集まるボゾンピークと呼ばれる現象を確認した。これは実験でも観測されており、本研究は分子シミュレーションで再現した。このボゾンピーク領域では、振動モードが乱れた振動であることが分かった。このような乱れた振動は弾性率の不均一性に起因するものと考えられる。そこから周波数を下げていく、すなわちスケールを大きくすると、弾性不均一性が阻止化されることでその不均一性が弱くなり、それに応じて振動特性が変化していく。 巨視スケールでは、弾性率の不均一性が見えなくなる。そのため、振動モードは(一様な)弾性体力学で記述される弾性波となることが期待される。実際に、ガラスには振動モードとして弾性波が存在する。ところが、弾性波以外に、それとは全く異なる局在化した振動モードが存在することが明らかになった。弾性率の不均一性がみえなくなると期待される巨視的なスケールにおいてさえも、弾性波以外の振動モードが存在することは驚くべき結果である。これは、連続体極限においてさえも、弾性率の不均一性の影響がなくなることはなく、ガラスの物性に有意に影響を与えることを示している。さらに、本研究によって、弾性波は結晶で成り立つデバイ則に従う一方で、局在化振動はデバイ則とは全く異なるノンデバイ則に従うことが明らかになった。 本研究は、以上のような振動特性を、レナードジョーンズ系を含めた複数のガラスで観測しており、本結果が構成分子に依存しない、アモルファスに起因する普遍的なものであることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画以上に進展していると評価する。また、本研究を始める前に期待していた以上の研究成果を出すことができたと考える。 平成29年度の計画は、ガラスの振動解析を実施し、その振動特性を比較的高周波数域のメソスケールから、マクロな連続体極限(低周波数・長波長極限)まで幅広く明らかにすることであった。この目標は十分に達成でき、研究成果を次の論文にまとめることができた:H. Mizuno, H. Shiba, A. Ikeda, PNAS 114, E9767-9774 (2017); M. Shimada, H. Mizuno, A. Ikeda, PRE 97, 022609 (2018)。また、国際学会、国内学会で研究成果の発表を行うことができた。 研究実績で述べた通り、連続体極限ではガラスの振動特性が弾性波になることが期待されるが、本研究によって実はそうではなく、弾性波と局在化振動が混在したものであることが明らかになった。この結果は、本研究を始める前は予想できなかったものであるが、ガラス物性を理解する上で本質的に重要なものであると考えられる。また、当初計画していたレナードジョーンズ系のガラスだけではなく、それとは異なるポテンシャル系のガラスの解析も実施し、特異な振動特性の普遍性を示唆することができた。これらの結果は、ガラス物性の理解に大きく貢献するものであり、ガラス物性の分野にインパクトを与えることができたと考える。 さらに、本研究成果をもとにプレス発表を行い、成果を社会に発信する活動を行った。その結果、日経産業新聞(2017年11月27日)、日経新聞(2018年3月4日)ほか、多くのメディアに取り上げられ、本研究成果の重要性、面白さを広く伝えることができたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画では、平成30年度は局所弾性率を計測し、その不均一性と振動特性との対応関係を調べる予定であった。しかしながら、先に述べたように、連続体極限において予期されなかった局在化振動が発生することが明らかになったため、弾性不均一性との対応関係を調べる前に、まずはこの局在化振動の性質を徹底的に調べる必要があると考える。また、これまでの実験でガラスの低周波数域の音波輸送特性に異常があることが言われてきたが、この異常性はまさに局在化振動モードと直接的に関係したものであると考えられる。そこで、平成30年度の研究計画は、(1)局在化振動の特性を明らかにする、(2)音波輸送特性の異常性を局在化振動から理解するの2点を実施し、その上で(3)弾性不均一性との対応関係を調べることとする。 具体的には、(1)では局在化振動がどのような分子振動であるか、局在化はどれくらいの大きさをもっているか、その特徴的な長さスケールなどを調べて、局在化振動の特性を明らかにする。(2)ではガラスの音波輸送特性に関して、特に、低周波数域に着目し、音波輸送特性と局在化振動の関係性を明らかにする。そして、(3)では、局在化振動、異常な音波輸送特性を弾性不均一性をベースとして理解する。局在化振動は、弾性不均一性の直接的な表れである。局在化している領域は、弾性率が極端に低い領域であり、その柔らかい領域で分子振動が局在化していると期待できる。また、局在化領域をガラス中にある欠陥と考えたとき、ガラスを欠陥がある弾性体と扱えるのではないかと期待できる。この描像から、音波(弾性波)の散乱問題として、ガラスの音波輸送特性を記述することを目指す。
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